観て聞いて参加するのは嫌である

 田中小実昌が昭和四十年代に書きつづったストリップの世界と今のストリップの世界との違いは何だろう。ぞうよと呼ばれる小屋の食堂みたいな場所は今もあるのだろうか。小屋の二階がうなぎの寝床のような宿泊所になっていて皆そこで仮眠して雑魚寝して子どもにミルクをといった風景は最早絶えただろう。森繁主演「喜劇・女は男のふるさとヨ」などの風俗ものの古い映画の中に姿を残すのみである。

 が、やはり新世紀の劇場をロードするダンサー達もきっと何処かで寝て起きて食べて入浴してまた寝てるはずなのだが。「ゆうべは朝の7時までガンガン飲んでてまだ酔ってんだよね」ふうな誰にともなく聞かせたい女の独り言を私は何度も複数のダンサーの口から聞いた。やはり門限付きの宿泊所のようなものは今では存在しないのか。親代わりの森繁夫婦が心配して待ってたりはもうしないと。無いのか今時そんなもの。あっても誰も利用しないとか。郊外のバカ高の片角に建つ学生寮みたいに。そんなレベルの低い学校に地方から親元を離れてまで通うってどんな奴だよって、学園内でパンダ化してしまうような。そんな宿泊所に公演期間中どっかと腰を落ち着けるのは引退のタイミングも見失ったロートルダンサーだけか。まだ十代の頃に面倒見てもらった森繁夫婦と擬似親子水入らずで。昌平ラーメンでも頼んで。涙のラーメンと。そういうドラマを撮ったらいいんですよ「かまち」よりもあの監督は、ねえ。

 一方、朝の7時までガンガン飲んで昼の部ではゲロリそうなまま舞台に立つ今時のダンサーとはまるで70年代のアングラ役者だ。宿酔い、絶叫、客席に吐寫などといいう信じられない愚行が時代の空気の中で妙に神格化されたりしたあの頃。ゲロに感動した若者もいたのだ。俳優の布施博は高校時代に先輩であった劇団員に引きずり込まれたロックンロールミュージカルでゲロの洗礼を受けたという。「本当に客の前でゲロ吐いちゃうんですよ」と当時のときめきを熱く語った男性誌のインタビューで彼はトレンディドラマの要になっていた。でも田舎の高校生だった自分の目を開いてくれたのはあのゲロですからといったマイナスイメージ発言にも胸を張っていた。私もいつか見ることができるのか新世紀の舞台に舞う彼女達のそれを。あしたのジョー2ばりにキラキラ光ってそうな。ウィスキーよりはやはり焼酎系の匂いの。やはりラーメンをあしらって。で、観てるこっちはどうしたらいいの。引いちゃいけないの。「ビックリ大集合」の小林麻美みたく。もうそんな事言っちゃいけないの。わかった。