おかわり自由の塔も必要である

 ひょっとして衛生管理上の問題でもう営業できないということなのか知らん。私の好きなスタイルの町のおそば屋さんが近年たて続けにスクラップ&ビルド、もしくはスクラップされたままになっているのだ。私の好きなスタイルのおそば屋さんとは小中学校の何やら準備室くらいのスペースの一間造りの店である。床は黒光りし始めたコンクリート。配膳台の向うは勿論板場だがこちら側にも食器類や薬味などがスタンバっていて配膳台を出来かけのおそばが通過しながら完成し間もなく客席に差し出されるスタイル。その間客である私も従業員の手さばきに心の中でオットット、トトッなどと合いの手を入れていることをつけ加えておく。そうしたハンドメイドなある種フォーキーなふれあい感覚の町のおそば屋さんは新世紀にはNGという当局の条例が実在するのかしないのか不明だが現にそうした店は姿を消している。確かに何かあってからじゃ遅いかもという気はしないでもない。

 和歌山カレー事件以来おかわり自由のドリンクコーナーとかトッピングポットの中とか有難味よりもいや待てよというブレーキ作用のほうが先行してしまうのだ悲しいかな。おかわり自由の幸福な時代は終わったといっていい。床屋さんのガムにもチッと舌打ちしてそそくさと去るのが今の時代のコボちゃんなのかも知れないのだ悲しいかな。しかし一方ではバイキング形式の高級ランチとか自己申告式のさぬきうどんとか盛況だったりするようでわからない。それなりにスポットの当たっている流行ゾーンでならある程度自由に食らってもらって結構なんですけどねという当局の判断からか。エクスキューズミー当局。じゃあ何ですか、ある程度日の当たる場所でそれなりの料金を取っている店の中でならフリーにやってもらってもそれは構わないと。でも場末のシラッ茶けた狭い店ではいかがなものかと。そんな場末までリサーチしきれない。何かあってからじゃ遅いと。ふいに指鳴らしたりして。数週間後には私の好きなスタイルの町のおそば屋さんの前に大型重機つめかけていたり。立入禁止の立て看なぎ倒して作業員にポコポコと泣き挑むべきか。ランドセル姿で。

 失われし昭和の町並み的な製作意図の写真集やムックに最近ついつい手が出てしまう私ではあるが話は逆かとも思うのだ。スクラップ化した方が無形遺産的値打ちミジンコながらも発生するといった狙いがあるのではないか。失う側にすらも悲しいかな。細々ながらも営業中である以上ガラクタ小屋扱いだが遺産にもなりそこないそうな。いいのよ、めんたいロックで。



 夏という事でやはりウエストコースト。西海岸の風を感じるモノ、コトを探し求めてみたいと思う。勿論実際西海岸に遊びに行ける訳もないのだが今出来る限り手の届くだけのところで何とかその西海岸を。ウエストコーストを、ねぇ。やっぱ大宮?ハタボウルじゃない。ボウリング場を半分ポシャらせて展開したレジャーランド。それが日本の70年代の西海岸だったと言える。ロジャースボウルの旧館がガレージ市場化してしまったのは今の時代仕方のないことかもしれない。70年代からそりゃガレージっちゃガレージだったのだが。当時はガレージなりにも活気と明るさがあったのだ。ウエストコーストな風がそりゃ吹いてましたよ。ゲームコーナーのジュークで繰り返し聞いた「ソウルドラキュラ」が忘れられない。当時はまだ最上階でのみボウリング場も営業中だった。現在ではこれはもしやあのストライクゾーンにあたるゾーンと思える半円のくぼみにもティッシュや洗剤が積み上げられている。ボウリング場の面影を残したレジャーランドが今現在どのくらい残っているのか知れぬがきっとそこにはあのウエストコーストの風がと私は思いめぐらす。何をもってああした場所にそれを感じるのか。落ち着きのある光量か。シャンデリア。誰も食べないパプコーンの自販機。小学生でも無限出しのイカサマができる10円スロット。やっぱり誰も買わないプラケースに陳列された高倉健からジョン・トラボルタまでバラエティ豊かな販売ポスター。それらはまぎれもなくあの時代のボクらのウエストコーストでした。

 今こうして書き連ねてるうちにフト気付いた。同じ戦略でまだがんばってるのがヴィレバンではないか。中年期に入った今でもそこそこ胸ときめかされてしまうヴィレバン店内のあの匂い。あの匂いとは新宿ニューアートにも通じる芳香剤の匂いそのものではない。私の心の想い出箱の中にもまだ残るあの匂い。探さなくてもやはりというか今も手の届く所に鎮座している国産ウエストコーストのあの匂い。たまらん。ヴィレバンにも王様のアイデアにも気持ち的にはもう反応したくないのよ三十面下げて。親戚中のジャリ共の教祖たる夏大好きオジサンみたいなの嫌だし。しかし自分が小学生の時はそういうオジサン以外のオジサンを軽視してたし。何だ横分けじゃねぇ。空気銃も持ってねえでやんのとか。ひょっとしたら自分も今頃は日曜ごとにワゴン車に家族を乗せて何たらボウルに押し寄せていたかも知れぬ。

 一瞬ね。森本レオがちゃんと家族サービスしてるところを去年の今頃見ました私は。彼こそは。