今だ見え過ぎちゃって困るんである

 ほぼ毎日のように利用している近所のスーパー銭湯に最近ちょっとした異変があった。露天風呂コーナーの夜間照明が突然消灯されてしまったのである。暗がりの中でゴボゴボとうでられ湯治されるのもまた良い塩梅でしょう、という店側の配慮かと私は初め呑気に納得していた。が、ふいにヒッチコック映画のようなミステリー空間をその場に感じギクリとなった。つまり照明を消す事にしたのはそこにあるものを外部の視線から隠す意味があるのではないかという疑問である。
 そこにあるものとは連日押し寄せる利用客の裸身である。つまり今こちらからは肉眼で確認できない何処かの建物から望遠レンズこの場をピーピングしている曲者が存在するのではないかということである。スーパー銭湯付近に最近高層マンション等は建てられただろうか。建ちました。つい数ヶ月前に完成直後にドッと住民が押し寄せたばかりの超高層マンションが当のスーパー銭湯のはす向いに建っていました。しかしそのマンションから露天風呂をピーピングされている危険には誰が気付いたのか。銭湯サイドが露天に立ちつくし周囲を見回しもしやと感じたのか。しかし私も露天の中をウロウロ見回ってみてもまったくその気配はないのだ。
 恐らく地面に置いた金魚鉢を二階の窓からオペラグラスでのぞく程の距離感でこちらは視姦されているのだ。そしてそのことを告発したのも恐らく同じマンションの住民ではないかと私は思う。初めはスーパー銭湯の利用客として露天コーナーでタオル一枚ですっかりくつろいだ後に自宅マンションに戻るとベランダから今さっきまで自分が素っ裸で海老ぞっていた露天コーナーが丸見えであったなら。思うに告発したのは若い女性客ではないかと思う。そして同じマンションの何処かには余計なことをしやがってと舌打ちするピーピング野郎がゴロゴロしているのかもしれないのだ。
 そう考えるとこれから半生をかけてコツコツとローンを支払い自分の財産にするつもりであった白亜の城がやにわに妖怪ハウスのように感じられるのではないか。つい先週にも中学教師が校内の女子トイレに隠しカメラを仕掛けて発見される騒ぎがニュース報道されていたがピーピング犯罪は今後も減少しにくいと思う。それも一見してうかつに近寄らぬ方が良いで出歯亀男の出で立ちではなく外見上は極めて良識あり気なスクエアな人種の中でこそピーピングは楽しまれている。ストップ!ピーピング。と、まァ社会浄化運動のポスターを作り貼りめぐらせたとしてそんなピンク地帯に誰が住めると小股で迎え酒。