巨匠は76年生まれの76才なんである

 8月16日、シネセゾン渋谷にて山下敦引監督作品「リンダリンダリンダ」を観る。地方都市の女子高生達が卒業前の思い出に、文化祭でバンド演奏をする。演奏曲はブルーハーツ。途中でケンカ別れしたメンバーの代りに、韓国からの交換留学生をボーカルに迎えて、わずか3日のリハーサルの後に文化祭のステージに立つ。と、これだけのお話を1時間54分もの劇場映画に仕立て上げるとしたら貴方ならどうする。何となくそんな問いかけをスクリーンから投げかけられたような気がした。
 急ごしらえのコピーバンドが文化祭でいっちょブチかますまで。ただそれだけのドラマを最大限に盛り上げる力量を見せられるか否かの力比べに参加させられてしまったかのような。既にあちらこちらの雑誌等のレビューにある通りに、私も何だかんだ言って結局素直に感動してしまったクチである。ステージ本番で一曲目「リンダリンダリンダ」をブチかまし観客をポブコーン状に跳びはね沸かした直後の「やったじゃない?!」と言わんばかりに交わすメンバー達の熱視線。何をやったのかといえば田舎町の高校の文化祭でコピーバンドを演奏しただけである。しかしこの「やったじゃない?!」的な快感は十代の頃なら誰しも覚えがあるのではないか。
 バイトして貯めた金で一人アメ横に出向き初めての革ジャンを手に入れた時。音楽誌の広告で見た輸入レコードを西新宿で実際手に触れそれがポケットの中の持ち金で買えると気付いた時。成人してしまえば実に何ちゅこともない小さな出来事に浮き足立つ時が青春期には一度はある。人それぞれにあの時の「やったじゃない?!」な瞬間を思い出してみるも良し、今一度そんな瞬間を求めて何かにしゃにむになるも良し。山下作品らしい誰も知らない、知ってどうなる訳でもないちっぽけな若者達のちっぽけな栄光あるいは挫折が本作品にも力いっぱい描かれている。
 そしてそのタッチたるや20代後半の若さにして使い捨ての新しさになく不気味なまでにスタンダードなのだ。本作を20年前の池袋文芸座ル・ピリエや大塚名画座で観ても全く違和感はなかっただろう。相米慎二とその作風をよく比べられる山下監督だが似てるからどうこうではなく似てても似せてたとしても秀作には違いないというか。はっぴいえんどサニーデイ・サービスが似過ぎていることに誰も文句をつけようとは思わないのと同様というか。松本隆は山下ファンらしい。幸せなんて何を持ってるかじゃない的なシンナー臭きアジテーションは山下作品からもプンプン匂ってくるがこの匂い本当気をつけないと。