最近の彼女を私は痛く買うのである

 8月15日、池袋北口にっかつにて3本立てポルノを観る。平日の昼でも客入りは三割強と悪くない。ピンク映画館の経済学みたいな論文も誰かひもといていただけまいかと。しかし昼の日中にこうしてどこからともなく集結したポルノ映画の観客が大人しく映画を観ているかといえばそうでもない。終始席をゴソゴソと移動したり通路に出てはまたすぐ戻ったりを数十分おきに十人に一人は繰り返す。そもそも集中力がないのだろう。テレビのリモコンをひっきりなしにいじくり回して結局何が観たいのかよくわからないお父さんが外でも同じことをしている。
 今時のピンク映画なぞ貧弱過ぎて余り観る気もしないが、3本立ての一本がロマンポルノの旧作というプログラムが北口にっかつの魅力なのでついフラリと入ってしまったんである。が、しばらく様子をうかがってみると今日は3本とも新作のようだ。スクリーンの中の役者が読んでいる新聞に去年の列車テロ事件の記事がある。こういうものを画面に取り入れても最近のピンク映画は時代とか世相やらを全く感じさせない。ま、どうでもいいような行き場のない中年の男女のからみ合いをやはりどうでもいいような観客が余り落ち着きなく見守っている訳で。
 たまにはそういう小屋にしんなりと身を沈めて良かったわいとは一度も思わないのだが。ロビーで林由美香の追悼特集上映のフライヤーを入手する。林由美香は幕間のスポット映像の中で携帯の電源をお切り下さいねなどとさっき言っていた。六月に急死して今だに流しているのだからこのスポットは保存されるのか。結局友だちの付き合いでチケットを買わされた素人劇団のくっだらない芝居をフィルムに収めたような作品ばかり量産されるので今時のピンク映画は観る気もしない。どうでもいいもの。
 と、少し身もフタもないことを今書きかけて思いとどまったのは林由美香を思い出したからだ。林由美香はどうでもいい女優ではなかったのでは。追悼特集に足を運んでみたくなってきた。北口にっかつでも特集を来月組むようだ。亡くなってしまってから急にチヤホヤするなんてと思う向きもあるだろうか。しかし現実にはもう誰をチヤホヤしてる訳でもないのでは。有り金全てブチ込んで路頭に迷ったろかと、もう。もうこうなったら。
 何がどうなったかは追悼フィーバーの終了する晩秋にわかるだろか。いや何がどうなったなんてねぇ。林由美香とは何物であったかといった探究心という程のものでもなく。何がどうでもよくなかったのかの一片にたどり着ければと。