この店いいやね、心の故郷である

 杉並アニメーションミュージアムに、私がここの所「タイムボカン」の上映会を一人楽しみに通っている件は以前この場に記した。が、その回だけが異常な当たりを見せて、一週間位たいしたアクセス数だったよとは家主のエイチの弁。ふむ。「タイムボカン」シリーズのことなら何でも知りたい固定ファンというのはまだまだ全国に大勢いるのだろう。
 多分私のごとき者の書いたものまで、ひょっとしたら元制作スタッフが個人でつづった裏話か何かと思い違いして、つい飛びついてしまったのではないか。しかしよくよく読めば、小学生並の筆力によるタツノコプロ無関係者の書いたただの感想文。ふっざっけんなよと舌打ちしたボカンマニアは全国に大勢いたのだろう。メンゴ。
 さて、私が荻窪駅から青梅街道を、アニメーションミュージアムに向いとつとつと歩く途中に、一軒のガレージハウスがある。表には、中で手作りの珈琲と焼物を販売しておりますのでどうぞ、といった案内の張り紙やのぼりがある。が、何というかそのアプローチがボランティアサークル、宗教、悪徳商のそれに軽くかぶるようで、これまで素通りしてきた。が、私はこの場で去年の暮れから今度は体を張った突撃取材やりますよ、コミック雑誌なんか要らんですよとタンカを切っていたのだった。そろそろ突撃しないと信用落とすかしらとも思い、その日はその不気味なガレージハウスに闖入した。
 階段を二階、三階と上って、茶店のドアをくぐると六十代半ばほどの女性が「いらっしゃいまし」と出迎えてくれる階段のどこかに来客を知らせるセンサーが設置してあるのだなと私は思った。茶店の様子はやはり区民センターのふれあい施設のような、田舎の高校の文化祭の喫茶のような、あの手作り感覚である。カウンターの上に、テレビがあり、それを六十代半ばほどの男性が観ている。給仕をするのは女性の方で、男性はテレビを観ながら何か感想をぶつぶつ言う。テレビを観ながら何かぶつぶつ言うところを見ると、どうも男性はお父さんらしい。つまり給仕をする女性はお母さんか。
 店内に展示された焼物は、どれでも百円とか。珈琲は一杯三百円で、結構な御手前。そして客は私一人。まるで実家のように落ち着くなァとトイレに立つ私。便座にしゃがみドアを閉めると中は真っ暗に。個室の照明スイッチは、フロアのどこかにあったらしいのだ。が、もういいやと暗闇で用を足していると、誰かがスイッチを付けてくれたようだ。やはり実家だ。先だって久し振りに新宿を一緒に歩いたエイチが新宿いいやね、心の故郷だわなどとキメやがったが、私も同様に便座でキメる。