あのオジサンと遊んじゃダメである

さて、ハイドパーク2006のもうひとつの目玉は18時に登場した遠藤賢司バンドであった。登場するや否やスタンディング席以外に棒立ちになった観客に野次が飛ぶ。これが、これだけが今日一日の進行の中で一寸だけピリピリした場面であった。他の野外フェスに比べればずっと御行儀の良い客質と言ってよいだろう。
山道で行き倒れになった酔っ払いに更に追いはぎやイタズラ目的の雲助が群がるといった地獄絵図は見られない。屋台、グッズ売り場で仕切りの悪さにイラ立つ観客をなだめ疲れた売り子もオラオラぶち切れTシャツ売ってんだかケンカ売ってんだかわかんなくなったりといった悲惨な闘いはここにはない。すごく幸せなことだしこの幸せがこれからも続いていけばと結構マジに思ってしまう。で、そのようなピースフルなイヴェントの中で唯一毒を吐き散らしてくれそうなエンケンのステージだったのだが。
まずその日エンケンがはいていたデニムパンツにおののいた。『東京ワッショイ』のジャケ写でおなじみの股間にバナナ、左右の脚にキングコングフランケンシュタインのペイントが入ったあのデニムパンツである。30年近く前の衣装をまだ保存している物持ちの良さだけでなくそれをすんなり身に付けられる体型の変らなさに返す言葉がない。
『東京ワッショイ』発売時のプロモーションとして当時テレビ東京加藤和彦が司会をしていた『ステレオ音楽館』という音楽番組にエンケンは一週間ゲスト出演していた。そのことを覚えている通な観客へのアプローチか知らとも思ったがもう一つ。当時テレビ埼玉鳥塚しげきゴールデン・ハーフスペシャルが司会をしていたオーディション番組のゲスト審査員としてエンケンは出演していたのだ。愛用のグレッチにアルミホイルを貼りめぐらせて『東京ワッショイ』を披露していたがそのことに何か音響効果があるのか田舎の中学生にはわからなかった。
そして今ギター本体に自作のエフェクターを直接人工移植するという相変らずの自家製パンク精神も実際どんな効果があるのかないのか私にはわからない。わかったらつまらないとも思う。エンケンだけが放つあの狂気。多分根がひょうきんであり本来マジメな気のいいオジサンなのだと感ず。でもやっぱり普通じゃないんじゃないか。少しおかしいんじゃないか。
自分の家の子供がああいうオジサンの家に面白がって出入りし始めたとしたら誰しも心配だろうと思うのだ。だがそうした自家製パンクな困った珍獣親父も近年随分減ったというかエンケンが最後の一頭かとも痛感。