今や雲の上の青二才に君臨である

11月22日、シネアートン下北沢にてProject Nyx第一回公演『かもめ或いは寺山修司の少女論』を観る。プロジェクス・ニクスとは新宿梁山泊の看板女優、広島かつらの立ち上げた実験演劇ユニットだとか。
ぴあの告知でちらりと見かけた時は気付かなかった。松田洋治と広島かつらが並んでいる写真を見てこの二人が共同で立ち上げたユニットなのかと。実際は広島かつらの主宰によるもので松田洋治は特別ゲストとか。私の目当ては小劇場で観る舞台俳優としての松田洋治である。
テレビドラマの子役時代からアニメ、洋画の声優もこなす今日までいつも変に気になる俳優、松田洋治の生の舞台に触れるのはこれが始めてであった。シネアートンの前で開場を待つ。関係者らしき招待客が結構な年輩であることにも俳優としてのヒストリーを感じたし入口には松田洋治後援会なる団体からの花輪までもが。考えてみればそろそろ日本を代表する俳優になりかけているのかもしれないのだあの松田洋治も。
舞台は寺山修司の原作を朗読とイメージ映像、原作絵本のさし絵のスライドからゆったり進行し始める。以前にフジテレビ主催の舞台に俳優や女性キャスターが恋愛小説を朗読するだけの企画があり白々しい気もする賞賛の声と興行として成立してない只のホン読みではないかというもっともな批判を浴びた。ひょっとして今回の舞台も只のホン読みかとも思ったが。全体を観終ってみると朗読部分の方が安定感があって入り込めたような。声優としても充分なキャリアを持つ松田洋治のしっとりした語りは興行として成立していると感ず。
舞台はその後広島かつらの歌とパフォーマンスが中心となり松田洋治は彼女演じる狂女に翻弄される悲しい男としてあっけなく銃殺される。銃殺されるとすぐさまコントのようになだれ込む救急隊に担架で担ぎ出されて退場してしまう。カルメンマキの『私は風』にのって惨劇の舞台に一人立ちすくむ広島かつらを警官が連行する場面もコント的であった。コント的であるが本来この間抜け感が寺山作品の持ち味なのかと。
それはそれとしてもキャスト紹介では宣教師のごとく胸元で両手をガッチリ組んで深々と頭を下げた松田洋治の表情は。何というか俺やっちゃったなぁといった苦々しさが。どこがどうやっちゃったのか私には気付かなかった。台詞はかまず進行がもたつく場面もなかったが。やっちゃった自分を観客にさらけ出して頭を下げる松田洋治を私は以前よりも好きになってしまったのは変か。日本を代表する俳優にはまた今度で良いのではと。