極妻も愛人も怖くもない御方である

6月15日、フィルムセンターにて川島雄三監督『お嬢さん社長』を観る。ロビーをくぐり映画ホールにつづく階段の途中で泉麻人らしき人物を目撃。もうそろそろおじいさんといった感にまさかと思ったが。考えてみれば『テレビ探偵団』や『冗談画報』からはかれこれ20年近く経過している訳であの頃三十歳になるかならぬかの泉麻人は現在50歳なのだった。
川島雄三のファンなのか。いや美空ひばりに関するネタ収集だなと何となしに思った。五十歳になった泉麻人美空ひばりの魅力を中高年層以下の日本人にも伝えるためのコラムを近い内に発表しなければいけないのだなと何となしに思った。それじゃまるっきり御用ライターじゃないかとも思ったが、御用ったってピンからキリまであるはずである。五十代に突入した一人の原稿書きが今現在美空ひばりを書いているのか青木りんを書いているのかでは雲泥の差である。美空ひばりを書いている泉麻人は御用の中でも相当なエリートコースなのだろう。などと勝手な想像をして私も『お嬢さん社長』を観ることに。
1953年の松竹映画であるから出演者もほとんど他界してしまっているのでは。そうでもないか桂小金治。川島作品の常連である桂小金治を面白いと思えるのは川島作品の中だけ。いや私世代の知っている小金治がワイドショーで若者と言い争ってプリプリ怒ってる中年男としてのイメージからしか知らないだけで青年期の小金治は本当に面白い芸人だったのかもしれない。
映画は完全に美空ひばりの歌謡コメディといった風のものでやはり歌のシーンになるとあぁいかにも歌謡映画だとなごませる。今それなりにセールスのあるアイドル歌手を起用して同じ手法の歌謡映画を強引に作ってもなんだかぎこちないものになってしまうだろうとも思った。この手法自体がならばどの辺まで有効だったのかといえば『スケバン刑事』くらいまでかなと思った。『スケバン刑事』の最新版を未見なのだがあれもひょっとして強引な歌謡映画だったのだろうか。
病気で入院してしまった大会社の社長の代行に歌手志望の孫娘が選ばれトントン拍子に事業も芸能活動も大成功してしまう展開のC調な空しさをカバーするのはやはり美空ひばりの歌声か。少女の割には達者過ぎてこなれ過ぎていて不気味といった批判も当時のマスコミにはあった件もうなずけるが。けれど気味悪がられるくらいでちょうどいいんだからといった計算が周囲の大人の中にではなくたった一人のまだ小さな星の中に息づいているようにも思えてしまう。日本のマッチョは彼女から。