応接間に並ぶサレコウベである

12月12日、ラピュタ阿佐ヶ谷にて『俳優 岸田森』の二週目にあたる『曼陀羅』(71年 実相寺プロ・ATG)を観る。会場には若い女性客が意外に多い。昭和40年代生まれの怪獣もの大好き男たちと違って彼女らがどういうきっかけで俳優、岸田森に興味を持ったのかが気になる。松田優作について書かれたものの中には師匠のような存在として必ず登場するからだろうか。
本作『曼陀羅』は71年の実相寺昭雄監督作品である。表舞台では円谷プロウルトラシリーズで人気を集めている面々が今でいうインディーズ映画のような場を手工業的につくり思いっきり裏モノなカルト作品に仕上げた感の怪作。ま、カルト教団の話なのだそもそもが。漁村のひなびたモーテルで恋人交換を楽しんでいた二組の学生カップル。その様子を隠しカメラで盗み視ていた教団のリーダー役に岸田森。農業とフリーセックスを柱にした教団の若い力にと学生カップルを巻き込み女学生一人をリンチ殺人に追い込む。教団はその事件をきっかけに新天地を求め屋形船で大海に旅立つ途中で全員流され絶命する。生き残った一人の青年はモーテルを売り飛ばした金で高額な日本刀を入手し新幹線に乗り込む。列車がトンネルに消えかかる所で突然画面にノイズが走り音声もクチャクチャに乱れるとまるで映写事故のように会場の客電がついてスクリーンに幕が下りる。
実にアンダーグラウンドな。しかし公開当時とほぼ同じタイミングで客電を素早くつけて幕を引いているスタッフはもちろん70年代の若者ではない訳で。何かそこまで仕掛ける意味あるのかしらとも。ただ当時にしてもこのエンディングに奮い立った若者がそれほどいたのかとも。台詞のテンポも単調で効果音も極端に少ない本作では上映中にいびきをかいて爆睡し始める中年客の姿にも無理はないと思ったが。当時だって似たような反応は少なくなかったんじゃないかと。こうした映画を少年時代にうっかり観てしまったら相当なトラウマになったかも知れない。が、本作には初めて観る者にも少年時代に見た悪夢とだぶり重なるようなシーンがテンコ盛りなのだ。
70年代初頭ってこのアングルからまたリバイバル視されそうな気がする。内ゲバの時代か。滅多なことを言うもんじゃないよお前と上の世代がまだ元気な頃と違ってそうした人々はもう現世には居なくなり始めている。岸田森のカルト教祖最高などとうっとりする今時の若い女性たちの中でトグロを巻くこの時代への根も葉も枯れたノスタルジーにはもはや誰も手のつけようが無いか。