時効成立後の俗悪一人再放送である

私の仮設住宅にもテレビというものがあるにはある。が、もう三年近く受信機としては利用しておらずもっぱらDVDのモニターとして。これでもしBS放送も受信することができたら魅力を感じる番組は結構ある。70年代刑事ドラマや学園ドラマの再放送とか。
で、いたしかたなく一人再放送を深夜に楽しもうと近所のTSUTAYAのドラマコーナーに通う日々がこのところ続いている。今週は『白い牙』を。74年、4月6日〜9月6日(全26話)の大映テレビ作品。藤岡弘演ずる元エリート刑事が同僚殺しの言われなき罪を背負い退職した後に出逢った川津祐介演ずるトップ屋、藤巻潤演ずる元八百長ボクサーとジェリー藤尾演ずるそのマネージャー。この分別盛りのいい大人四人組が事件屋を結成し警察が手を引いた怪事件の真相を暴いていく裏町アクションドラマといった感。
70年代の新宿のゴールデン街やトルコ街も背景に何度も登場する。さっきまでそうした場所で遊んでいたようなやさぐれキャラの大部屋俳優とカンフーアクションを繰り広げる藤岡弘藤巻潤らも決してまっとうな人物には見えない。悪役もゲンナリするほど悪役だがそれらと闘う事件屋四人組も充分汚れ役なのである。この汚れきった人物設定に当時小学生の私はショックを受けた。『仮面ライダー』の藤岡弘がそうした汚れ役を演じている。というだけでなくおやっさん役の山村昭二まで登場したり劇場映画で親子刑事を演じた伴淳三郎まで前科者の回収業者で時には拳銃なぞ扱う悪い意味での相談役として現れる。何やら他の作品で得た正義、熱血のイメージを『白い牙』に出演した以上はメチャメチャに破壊されることが番組のしきたりのような。
しかしそうしたマイナスイメージの演出に出演者たちがとまどっている様子はない。案外ノッているような。以前に千葉真一カンフー映画を初めて劇場でちゃんと観たときのことである。千葉真一ブルース・リーを過度に意識したその表情が関根勤のモノマネよりも異様におかしく椅子からズリ落ちたのだが。『白い牙』もワンクール終ってもうひとひねり欲しいと制作陣が考えた時期があったのかもしれない。一回だけあの千葉真一のような目玉ギョロギョロ唇プルプルのカンフーアクションを藤岡弘が見せる回がある。さすがにこれには引いたが。しかし藤岡弘は『白い牙』に限るという多くの藤岡弘好きの意見には私も賛成である。アンチヒーロー、アンチ大人のドス黒アクションドラマ『白い牙』を体験した小学生の何割かはその影響で今頃どうなっているのやら。祈りを。