男の顔は生涯履歴書なんである

2月22日、神保町シアターにて市川崑監督作品『プーサン』(55年東宝)を観る。劇場入口には「市川崑監督の御冥福をお祈りします」との貼り紙が。私が市川崑監督の悲報を知ったのは21日の昼、大塚駅前のモスバーガーで拾い読みしたスポーツ新聞の死亡記事によってであった。2月12日から始まった神保町シアターでの市川崑特集に行かねばとは先月から思っていたが。前日にモスバーガーに立ち寄らなければ劇場に入る直前に監督の死に気付かされていたのかもしれない。
チャップリンが亡くなった時には確か旧作がリバイバル上映中で劇場にそのニュースが流れていたような。そんな映像をワイドショーで見た記憶があるのだが。冥福とは辞書で引くと死後の幸福とある。映画監督が生涯現役で亡くなる頃にもちょうど特集上映が開催中であったなどとはそれは目一杯幸福なのではないかなと外では思えるが。市川作品には『幸福』というサスペンス劇もあって個人的にはおすすめ作品なのだが今回の特集には入っていない。作家特集に珍作奇作を散りばめるのは昨今あまり流行らないのかも。ベタな代表作すら知らない若者層にちゃんとメインストームを通過させましょうよ的な風潮からか。『幸福』もいいんだがなァ。おすすめなんだが考えてみればおすすめできる身分の私ではないのだった。
ちゅなわけで双葉十三郎氏監修の市川崑監督作品『プーサン』を観る。プーサンとはその後のショージ君やアサッテ君のような新聞漫画の人気キャラクターであり伊藤雄之助が初主演で好演している。教員なのにメーデーに参加し乱闘中の姿を新聞に撮られクビになる失業者がプーサンであり下宿先の一人娘が心の恋人である。他所に紹介しますからと母親からいただいた娘の見合い写真を机に飾っているプーサン。越路吹雪演ずる活発なその娘とは銀座でデートらしきこともする仲だが異性としては意識されていない。その内に娘には恋人ができるが中卒者のその男との結婚を苦労人の母親は許さない。大学出たってプーサンみたいな人もいる御時世に中卒じゃ話にならないでしょと娘を説得する母親の声はプーサンの耳にも届くが。心の恋人に突然フィアンセが登場して行きがかり上若い二人の応援団長のようにされてしまうやもめ男というのはその後の映画やドラマにもパターン化されているが『プーサン』が源流かどうか。
結婚を反対された娘が自殺騒ぎを起こす頃にプーサンは再就職を決める。ミシン会社の配送係だが実際扱うのはミシンではなく銃器。自動車会社がそもそも戦車を製造して巨大化したようにミシンメーカーは銃器製造によりふくれあがったというのは映画ではなく現実。ミシンのCMがワイドショーに流れていた70年代半ば位までその影響は残っていたのか。『3時のあなた』って右翼的だったかしらと今頃思い返しても何もつかみかねるが。が、須田アナウンサーって右翼でも左翼でもどっちでもよさげな。所詮どっちでもいいんだああいう顔は。怒られたら謝るだけの、ねぇ。そういえば70年代半ば位までは怒られたら謝ればいいだけとは思っていない高潔なアナウンサーもいたような。などと生きているヒトは馬鹿にして死んだ人は持ち上げにかかるのも市川崑の死去に影響されてか。生きている人に花束を差し出せる人物になったらどうか。じゃ、なります。今度からなるべくなります。なるな?絶対に。須田アナにオポチュニストとか言わないなもう。もう言いません。