養父も養牛も次の汽車に乗るんである

4月20日、ラピュタ阿佐ヶ谷にて「愛と官能のプログラム・ピクチュア 日活ロマンポルノ名作選」『ひと夏の秘密』(79年 監督 武田一成)を観る。主演は原悦子、脚本は田中陽造。原悦子演ずる家出娘が女子高生の頃に自分を犯した養父の死に水を取りに帰郷するおどろおどろしき情念ドラマである。元警官であった養父の制服と娘のセーラー服が実家の洋服箪笥に並ぶショットに『セーラー服と機関銃』を連想す。さては自らの大ヒット作である脚本の地下本をまたも自ら展開させた嫌な感じの意欲作かと思いきや。『セーラー服と機関銃』は89年作品であった。大ヒット作をモノにする以前の田中陽造ワールドは洒落っ気抜きの純正おどろおどろ情念ドラマしているかといえば案外そうでもない。危篤状態の養父と娘のおどろな愛憎劇に保険金のからむ死体捜しに明け暮れる不良カップルの能天気な乳繰り合いが重なり笑いを誘う向きもある。海で死んだその男には一億の保険金がかかっており死体捜しを始めた元妻と土地の不良中年は不倫関係にあった。死体を見つければ保険金の一割である一千万円は男の取り分になるがこのまま元妻と再婚して一億総取りも悪くないなどと皮算用する不良中年に田中陽造自身を勝手にだぶらせてしまったが『セーラー服…』の大ヒットはまだこの三年後である。一千万といわず何なら一億などとは夢のまた夢の現実にいながら本作をシコシコ書き上げた頃に『セーラー服…』はまだ影も形も存在しなかったのか。いや影も形も存在しないものは現世に存在しない。田中陽造の脚本にはいつもそのようなことをつらつらと考えさせられてしまう。原悦子演ずる主人公に犯されたり中年カップルが死体捜しをしたりするその海辺の町には屠殺場があったというエピソード。大量に殺された養牛の血が海面に拡がる様子を見つめていた小学校5年のある昼に初潮がやってきたのだと主人公が恋人に告げると「だからお前の体は優しいんだな」と言われるラスト近くまで、ほんでほんでと観ていたがハタと気づいた。原悦子って林由美香に似てるなと。原悦子ブームがなかったらその後のピンク映画界で林由美香はそれほど重要な位置付けはされなかったのではないかと。原悦子ブーマーだった当時の大学生って今や50代前後か。やはり未だにというか今ここにきてというか原悦子に全納した若き日のタンパク質を原悦子に似てるっちゃ似てる誰かに夢よもう一度と。もう一度とお願いされてどんぞと尻を剥くような山出しの芋姉の前では我に返るではないですか養父さん。