墓には唾より領収書責めである

深夜寝しなに懐かしドラマをDVDで観る習慣が続いている。近頃は『悪魔のようなあいつ』を。本作は三億円事件をテーマにしたアクションドラマで三億円事件時効成立にあたる75年に放送されてから一度も再放送されていない。
私はその本放送を観ていないのでそれじゃ懐かしいわけもないかと思えばそうでもない。脚本担当の長谷川和彦が本作の後に撮った『太陽を盗んだ男』を数えきれぬほど名画座で観ていて本作が『太陽…』の結果的にはたたき台になっていることに今ごろ気づいたからだ。
平凡な若者が社会を憎むでもなく冗談半分に国家を敵にまわすがやがて病魔に侵され一人ぼっちの紛争は悲惨な結末を迎える大筋はほぼ同じ。主演のジュリーを追いつめる刑事は本作では若山富三郎が、また『太陽…』では菅原文太だが犯人像への片思いのようなホモセクシュアルなムードが両者の間にあるのも同じ。
ただ私は何をカン違いしたのか本作を『傷だらけの天使』のようなフィルム作品と思い込んでいた。実際は『時間ですよ』のようなスタジオドラマでデイブ平尾も能天気なバーテン役で出演している。ザ・ゴールデンカップスの伝記映画『ワン・モア・タイム』の覆面ディレクター、サン・マーメンを私は長谷川和彦とにらんでいた。それは『青春の殺人者』の音楽がゴダイゴであるところからミッキー吉野つながりという点で。実はデイブ平尾とも旧知の友だと本作で今ごろ気づいた。
しかしそんなことは邦画界では公然のタブーなのかとも。長谷川和彦のゴースト仕事なぞ他にも数えきれないくらいあるのかとも。本作を収録したDVDの巻末には長谷川和彦のインタビューもあって昔話をトクトクと語っている。その中に当時スタッフに三億円事件の犯人だと噂される人物がいて彼のアイデアもいくつか起用しているとか。未だに再放送されないのはその辺りの事情もあるのかも。
しかし三億円の真犯人と噂される人物は70年代の盛り場には多くいたような。レオナルド熊が確かそうだったはずである。何をやって食ってるか誰にも見当がつかないが金に不自由はしてない浮世離れした人物には大概そんな噂がたつ時代だったのかもしれない。
ところで本作の脚本は長谷川和彦であるが原作は阿久悠上村一夫の同郷コンビである。阿久悠はこの後にピンクレディーという特大ヒットを放つのだ、が。そのピンクレディーの生んだ莫大な利益には黒社会のフィルターがかかっていて当事者たちにはジャパニーズドリームどこ吹く風だったと最近になって報道されている。誰か死んだわけかとそれらすべての諸事情に痛感。