シックスティーナインに復活愛である

6月24日、ラピュタ阿佐ヶ谷にて「脚本家 白坂依志夫」なる特集の『盲獣』(69年 大映)を観る。監督は増村保造、原作は江戸川乱歩。天才脚本家、白坂依志夫の天才振りを見せつけられる秀作である。
登場人物は変態芸術家である盲獣とその母親、そしてその母子に誘拐されて変態アートのモデルを強要される売り出し中のモデルの三人だけ。舞台は冒頭にチラリと出てくる美術展の会場とモデルのマンションと盲獣のアトリエだけ。上映時間84分をたったこれだけの設定で描き抜き少しもだれない。変態芸術家を演じる船越英二のキャラクターが一筋縄ではいなぬ振り幅の広さを持っていることも大きい。モデル役の緑魔子の魅力もある。が、やはり白坂脚本のナイーブさとネチっこさが江戸川乱歩の猟奇世界を見事にモノにしたのだと思う。
ガレージ一杯に並べられた眼のオブジェ鼻のオブジェに乳のオブジェとゴム製の巨大女などの美術は間野重雄。今観てもかなりトゥーマッチというかハッキリ言って悪ノリというか。しかし増村映画の最大の武器といえばそのトゥーマッチさであり悪ノリ振りであるわけで。90年代以降の再評価の中でそれらはパンキッシュなお笑い劇として若いファンを喜ばせていた。リアルタイムである昭和44年に本作を劇場で観ていた当時の学生たちはどんな反応をしていたのか。カルト女優のハシリである緑魔子が脱ぎまくりカラミまくっている本作のインパクトは相当なものだったはず。それがどんなに馬鹿馬鹿しい演出に走ろうとも本作をシリアスな立ち位置からずらさなかったかと。
あまり関係ないことかも知れぬが最近のアダルトDVDの収録時間はどれも120分近く私なぞは全編通して観る気力もないのだが。尺が長いのは風俗店待ち合いで流す目的の購買層に応えた為かと。が、私は最近秋葉原のセルショップでそうしたDVDを5〜6本まとめて購入している50代の会社員を見かけた。持ち家を断念した中高年サラリーマンのやけっぱちの豪遊の一つとしてそうした商品はあるのかとも。休日には自室にこもって2時間強もあるアダルトDVDを朝から晩まで観まくる中高年男性は現代の盲獣かもしれない。
彼等はそれで満足しきっているのかどうか知らぬが私は今時のAVギャルとそこまでどっぷり付き合えない。69年の緑魔子の方がずっと魅力的である。69年の緑魔子に今頃チンピクというのもお寒いだろうか。殺すつもりじゃなかった土日だけ監禁できればなどと生身の人間とアダルトDVDの境界すらなかった殺人鬼は69年の緑魔子に何も感じないか。