臨時ニュースは墓までトラウマである

地元のモスバーガーでコーヒーを飲みつつ日刊ゲンダイを読んでいると映画『GSワンダーランド』の紹介記事が。記者はジャストGS世代らしくファンタジーとしては充分楽しめる出来栄えとなかなか持ち上げている。それは益々映画が楽しみだなとは思った。が、記事の始めにその記者は「私世代にとってデイブといえば大久保じゃなくて亡くなったデイブ平尾なのであります」などとあっさり書いていたのだ。
私にとってこれがデイブ平尾の最初の死亡記事になってしまった。いや、最初というかそれ以来芸能紙を気にはしていてもデイブのその後を伝える記事には出会えずじまい。60年代半ばに人気アイドルで80年代にリタイヤして5年前にまたステージに戻った人物をマスコミがどれくらい意識しているかはわからないが淋しいことに変わりはない。映画『ワンモアタイム』の中で他のメンバーをからかって「昔はこいつらが一番人気ね、今は俺よ、アイドルは俺」などと笑っていたデイブの姿を私は思い出した。
60歳を過ぎた頃に再びアイドル視されたまでは良かったが20代の頃と同様にエンジョイすれば命を縮めるのは間違いないかと。と、思ったがんなこととやかく言われようが言われまいが落ち目の時も上り目の時もエンジョイしていたのだろうなとも。黒沢進氏の死によって私のGS熱はやや冷えかかっていたのだが。デイブ平尾の死はなぜか逆にもう一歩あの時代に踏み込みたいような気にさせられた。
40年前の熱狂とはまるで戦記小説を読むような距離感だ。現代には格好良く伝わり過ぎていることも多いだろう。80年代の『ウィークエンドスーパー』で鈴木いづみがGSをテーマに酒場でおしゃべりしていたページの中にGSの楽屋は暗かったと想い出し笑う場面があった。多分それも事実だろう。大部分の不人気バンドの当時の待遇など今の女子プロレス並にシビアだったはずである。そんな暗い過去を持つあの時代の生存者たる元不人気バンドの方々は『GSワンダーランド』を観に行くのだろうか。
映画に出演している当事者の岸部一徳は会社の上層部は案外あんな風だったかもとあの時代を振り返っている。超人気バンドと不人気バンドでは見てきた世界が違うとは思うがどうせならファンタジーにしてもらえたらという願いは同様なのではないか。暗い想い出はリフレインなしで明るい夢物語として再生してもらってついでにまた少しはモテたいという願いは同様なのではないか。それでいいじゃないかと。『デトロイト メタルシティ』みたいな音楽コントを3ヶ月以内に低度のきっかけでも。