実録ダメ連もヒロイン決定である

1月15日、銀座シネパトスにて『ノン子36歳(家事手伝い)』を観る。監督、熊切和嘉。主演、坂井真紀。坂井真紀演じる主人公ノン子は36歳バツイチの元B級アイドル。現在は田舎町の実家の神社に出戻りプラプラ飲み歩く日々。そこにフラリと現れた星野源演じる露天商の若者マサルとノン子のギクシャクした恋愛劇が始まる。
タレント業に失敗しマネージャーとの結婚にも失敗しハッキリと迷惑がる両親の元に開き直って転がり込んでいるだけに全人格的に腐りきった三十路オンナであるノン子。一方、風来坊のマサルは小さな町の小さな神社の縁日にいきなり自分も出店させろとテキ屋の元締めに申し出てあっさり断わられる。腰は低いが言ってることはドあつかましい今時の若者の典型にも思えるマサル役をSAKEROCKの星野源が大熱演というかシボられるだけシボりとられたよう。
昨年末の丸ビルの無料ストアライブにて細野さんと共演していた星野源の「スーダラ節」が心なしかブルージーだったのを思い出した。公開中の映画の中では恋人同士だった坂井真紀とプライベートではつらい片思いなのかしらとも思った。が、本作を観てマサル役そのものが強烈な虎の穴体験だったのだなと感じた。坂井真紀がファックシーンに体当りの演技をするのだから相手役の星野源もフルチンで全力疾走するくらいの突き抜け振りを要求されてしかるべしと。しかるべしと熊切監督が判断したのかどうかはわからない。が、若い世代には珍しいというかもう現れないかと思うようなハードコアな演出家なのだなと感じた。
そこまでさらけだしたら役者としてもひょっとしたら人間としても一個のシボリかすと化してしまうところまで踏み込む剛腕というのか。クライマックスでテキ屋の若衆にタコ殴りにされて逆上しチェーンソーを振り回すマサルのナマさ。あのナマさはアングラ劇の最中に舞台袖で男優が吐いていたり女優が鼻汁を垂らしていたりする時のあの奇妙な緊迫感に似ている。アングラをがんばってしまった自身とコンテンポラリーなミュージシャンでもある自身とのギャップに悩み苦しんでいたのかしらとあの日の丸ビルでの星野源を思う。

何か気の毒だからSAKEROCKのCD買おうかとも。『戦場のメリークリスマス』に出演した頃の教授が割礼体験であった痛かったなどと発言していたのを回想したが。同じ痛みを次作のアルバムに刻み込めたらと星野源は思うかとも。演歌のプロデュースなんか振られたらかなりハードコアな仕事をしそうな。シボリ取られてばかりでもないはずで。怖。