あの時代男優といえば団優太である

池袋、新文芸座近くの中古ビデオショップで見つけた『神様のピンチヒッター』を観る。ビデオの初版発行は92年10月とあるが。本作を確か旧文芸座地下で観たものだなぁとワゴンセールから50円で発掘した後タイムスリップを楽しむつもりでいたが。
『神様のピンチヒッター』を私は未見だったかもしれない。原作・脚本 矢作俊彦の日活アクションの大真面目なパロディ映画は90年代初めにまだ何本か撮られていたかも。私が劇場で観たのはその中の一本だったのだ。だが『神様のピンチヒッター』も悪くなかった。確かに「異色作家が自作を脚本・監督したネオ・ハードボイルドの傑作」かもしれない。オープニングからいきなり交通事故で植物状態という設定で登場するヒロインが秋吉満ちる。秋吉は学生時代のワル仲間、江口洋介勝村政信、塩谷庄吾の3人の共通のマドンナであった。
その秋吉を植物状態にしてしまった最後のドライブの後からワル仲間3人は本物のギャングになって完全犯罪に挑戦する。そうすることがマドンナへの罪ほろぼしだと3人とも納得している点がよくわからないが。計画が実行された後には江口みずからが秋吉を射殺してしまうというのもまたよくわからない。が、わからないのはいいのだ。異色作家、矢作俊彦が描くネオ・ハードボイルドの世界には日活アクションに重なる異色どころか変態性にも近い歪みがあってそこがあの時代には痛快だった。あの時代とは江口洋介が『愛という名のもとに』で人気であったあの時代のことである。
本作の江口らワル仲間の会話劇の中には「勝つためだけに勝負するのかい、読売ジャイアンツみてぇな奴だな」とか高くて上等な物が一番とは限らんぜなどといったヒッピー・ゼネレーションの格言みたいな気骨が満ちている。当時の若手俳優にそんなハードボイルド劇を演じさせて芸能人かくし芸大会のようにならなかったのは奇跡に近いと思う。ましてや江口洋介は当時の表舞台でトレンディ俳優としても世間に認知されていたのにもかかわらずである。が、やはり江口は地雷であった。
本作でチョンマゲ型のオールバックに黒のスーツできめている色黒で骨ばったマスクの江口はお笑いコンビ、オードリーの春日に似すぎている。時代が一回り、二回りしても痛快なハードボイルド調の大真面目な日活アクションのパロディになるはずだった本作だが。思わぬところから足を引っ張られたというかブリーフをずり下ろされたというか。忘れた頃にとんだくすぐりを仕掛けていた企画プロデューサーの川島透に遅ればせの拍手を。