体当たりの演技は今後禁じ手である

8月23日、ポレポレ東中野にて松江哲明監督作品『あんにょん由美香』を観る。05年に急死した女優の林由美香と深い親交を持つAV監督達の現在の想いを元ADである監督が問う内容のドキュメント映画。
その中に林由美香の死後に発掘された謎の韓国産ビデオ『東京の人妻 純子』の制作エピソードを追う様子もはさみ込まれていく。『東京の人妻 純子』はオール東京ロケ作品だが純子役の林由美香と男優の1人、入江浩治以外のスタッフ、キャストは皆韓国人である。が、何故か台詞はすべて同録の日本語。日本人妻の純子だけが何故かスリップ1枚で家の中をウロウロしている。行きづりの青年と簡単に浮気もする。夫婦の寝室ではDVが行われているが最後は純子と関係していた男同志が和解して彼女の自由な生き方に乾杯などと強引にしめくくる何ともヘナチョコな成人ビデオなのだが。
日本文化が解禁されつづあった時代の韓国だから作られたこの珍品に林由美香が出演した背景とは。みたいなことが本作の宣伝上のカマシになっているがその辺は結局貧乏性の本人が仕事を選ばなかっただけでしょといった周囲の証言に落ち着いてしまう。何か金大中が韓国のケネディなら林由美香は日本のマリリンといった政治的背景が引きずり出されるのかとも少し思ったがそこはやはりヘナチョコであった。ヘナチョコなりにも亡くなった主演女優のために当時のスタッフ、キャストを集めて「何かちゃんと1本の仕事を」やろうじゃないかと監督は立ち上がるが。
当時のガイドを務めた留学生は成人ビデオに関わっていた過去に触れたがらない。日本人は電車の中でもヌードグラビアながめているでしょ、韓国で同じことをすればその人は変態。成人ビデオのスタッフだったと妻に知れたら離婚されてしまいますと語るその男性の姿には少しひくとなる。性文化盛り上がり過ぎの日本にひくとなったのだ。盛り上げた張本人達が時代の大波にさらわれた林由美香に今一度ラブコールってどうなのかとも。どうかと思うよといった憤りを隠さない関係者の証言もいくつか登場する。変態とはもう関わりたくないよと言われた現役の変態の面々はもう決して若くはない壮年達だがそれでも皆活き活きしている。パッと生きている。
林由美香もそんな風にパッと生きている自分が好きで同じような仲間達のことも好きだったのだと思う。思うがパッと生きていくことは18歳の少女には革命気分でも34歳の中年女には地獄気分であったかも知れず。厄年男の私自身はなむけのオナニーもできない次第であって。