面白えじゃねえのよと閉幕である。

あんにょん由美香』をポレポレで観た帰りに東中野のスーパーで映画秘宝を立ち読みしていると山田辰夫の死亡記事に出くわした。胃ガンの手術をして近年は病気と取っ組みながら仕事をこなしていたことは知らなかった。出演作リストの中からそういえばと思う作品を再観しようかと。
そういえばと思う作品は『狂い咲きサンダーロード』以外にはなかった。河合その子がインチキ芸能学校の期待星で山田辰夫がその意地悪な先輩役だった2時間ドラマがまた観たくなったがビデオ化されていない。三十面下げてレオタード姿でレッスンにはげむ悲しき熱血漢がはまり役だったが。
仕方ないので近所の中古ビデオ屋で『ちぎれた愛の殺人』のビデオを入手。93年作品。監督、池田敏春。脚本、石井隆山田辰夫は主人公、横山めぐみ演じる女刑事の相棒役だが。交番勤務から地回りの刑事にやっとなっても「何もいいことねぇ」やさぐれ振りがまたファン好みか。食いっぷりの良さからもしかして地なのかとも思う大食漢の役で少ない出番のほとんどのシーンで何か食っている。面立ちからしてやせの大食いタイプだったかとも。
他の映画でもそうだが本作でも吊るしのようなブカツイ背広を無造作に着こなしている。このスタイルは本人のこだわりだったのではとも。ひと頃の不良がブカツイ学生ズボンをくるぶしが出るまでまくっていたのを思い出した。『羊たちの沈黙』『ツイン・ピークス』いま大人気のサイコ・サスペンスにまたあらたなる名作が、などとパッケージにはツカミ文のある本作だが内容も確かにそのような。と書くとそうしたヒット映画のセコイ追っつけ企画かと思われそうだが。
当時、そうしたセコイ追っつけ企画はもっとメジャーな会社から乱発され一発も当たらなかったはず。『ちぎれた愛の殺人』はそうした和製サイコ・サスペンス群の中ではまだ面白い方では。佐野史郎演じる大学教授が連続女子大生殺しの犯人かと思わせて実は狂人化した妻の凶行を必死で隠し続けていたという結末も割とあっさり風味で。ワゴンセールで百円なら特別出演の中村由真も観れて楽しめたが。
山田辰夫は本作のクライマックス前に殺されてラスト近くに生首姿で登場するが。この造り物の生首があまり似ていない。デスマスクの石膏が固まる前にムズがってどっか行っちゃったのではないかと。やることなすこと見習うべきところはないがそれゆえこんな男がどこまで行けるかと感情移入させる肉体を持つ俳優だったと思う。やっぱり『狂い咲きサンダーロード』が始まりで終わりというか。押忍。