アマゾンライダーが此処にありである

西巣鴨から池袋に向かう明治通りの途中にもう数年前にクローズしたあまり聞かないコンビニエンスがあった。初老の店主はよく「映画監督の塚本晋也は学生の頃からの常連だよ」などとそれらしい若者客にだけ話しかけていた。それらしい若者客とは革ジャンの背中に「生まれつき孤独で野生」とか「死を、必ずや」といった意味の英語を銀色の蛍光マジックで書き殴っている若者や露出できるだけの体の穴々にピアッシングしたその連れあいの女子らである。
私も塚本晋也の映画ならほとんど観ている。私にも同様に話しかけてくれてもいいじゃないかと思ったが。店主にしてみればたとえば親族の中にモーニング娘がいる話題をきっかけに新入社員のハートをつかみたがる管理職の心境だったのだろう。私なぞのハートはつかんでどうすると思っていたかもしれないそのコンビニエンスはやがてクローズした。が、その内その近辺で今度は塚本晋也本人とちょくちょくすれ違い始めた。
『鉄男』でデビューした当初の上映会のチラシの連絡先が西巣鴨だったはずだから本当に学生の頃から近所に住んでいるのだろう。『鉄男』のアメリカ版が昨今完成し文字通り今やアメリカで大人気などとキネ旬に紹介されていた記事の塚本晋也の表情が少し複雑だったのも思い出した。いわゆる止まらないジェットコースターに乗り込んでしまったのかと。
そう思ううちにまた例のごとく大型サイクリング車はやはり「ET」かなと思った。デビュー当時に出演していた水曜イレブンでキンキンに今後の抱負はと問われ僕に撮らせたら『バットマン』を超えちゃいますよと不敵に笑っていた塚本監督は今のところまだご近所の星のよう。中古ビデオ屋で入手した『六月の蛇』を観る。03年に公開されたいたいけな変態ストーカー映画。近隣マンションに住む人妻を盗撮写真をネタに脅迫し携帯電話越しに露出、放置プレイを楽しむ真面目な変態男役を監督自身が演じている。似たような変態役を他の作品でも何度も演じているがこうしたキャラクターはアングラ役者時代からの得意分野なのか。
ピーピングとグランギニョル。すぐに連想するのが寺山修司だが塚本監督世代には学生時代に寺山と80年代国産パンクに同時に影響されていた真面目な変態男子も多い。本作でのストーカー男の役名は道郎だし。70代にも届きそうなアングラの申し子達にテキスト以外で直接触れたいと私は思わない。が、塚本晋也が教科書の中の人になってもいいじゃないと何となく。