俺の涙は俺が拭くんである

12月21日、ラピュタ阿佐ヶ谷にて“歌謡曲黄金時代1960”『二人の銀座』を観る。タイトル通りの直球歌謡映画特集である。本作に登場するヤング&フレッシュなる新人GSバンドはスパイダースやブルコメの後輩でジャズ喫茶を中心に活動中。と、いうのは映画の中だけのお話。実際は山内賢和田浩治をメインに若手日活スターで構成された即席GSなのだが。
現在こうした企画で映画を作る場合各パートに専門の当て振り師が付いて何となく演奏しているように見せる。ヤング&フレッシュもそうかと思ったが画面ではバリバリ演奏している。現在と違って練習期間がたっぷりあったのかと思えばヤング&フレッシュ物は同じ年にもう一本制作されており前年にも一本あった。元々バンド出身でもない若手俳優を短期間でジャズ喫茶のレギュラー級には化けさせてしまう当時の日活というのはそれほど恐ろしい会社でもあったのだろう。と、思ううちに銀座のジャズ喫茶で歌う尾藤イサオの形相におののく。
二グロパーマにタイトなスーツ姿で仁王立ちするその口元はヒクヒクと引きつり眼光は天井を突き刺すよう。愚連隊かと。今から十余年前に昼のワイドショーで尾藤イサオ宅に闖入したコソ泥を尾藤一家が見事取り押さえたと報道されていたのを観た。その時も尾藤イサオ本人はいつものとぼけた番頭口調で娘たちがパパ二階に誰か居るよって騒ぐもんであたしもそりゃ大変だってんでなどとテレビ向きに説明していたが。あの時運悪く尾藤イサオ宅に入ったコソ泥は一家総出の過剰防衛に見舞われたはずである。本作を観て今頃それを確信した。
本作は昭和42年公開であるが準主役の和田浩治は86年に42歳で亡くなっている。昭和41年つまり66年に生まれた私は当時和田浩治胃がんで亡くなったと知ってもピンとこなかった。86年に20歳だった男が60年代の日活スターなら杉山元だって木下雅広だって知ってるというのもおかしいが。裕次郎と渡哲也の中間ぐらいのルックスだけど浜田光夫よりはクールな「ホラあの役者」だった和田浩治が何やら私は気になり始めた。42歳なんて若すぎるなと今の今では思う。思うが86年に20年前の青春スターだった和田浩治がどんな形でカムバックを狙っていたのかもう狙っていなかったのか。
芸能プロの社長にもグルメレポーターにも向いてない元青春スターに新天地はなかったのかとも。ヤング&フレッシュの出世物語があくまで映画の中だけのものとは現在の若者には多分伝わらないことだけは和田浩治にとって遅ればせのゴールドディスクかと。