すべてはここでファールしたんである

2月1日の映画サービスデーに『今度は愛妻家』を観に行くつもりだった。で、観に行った。薬師丸ひろ子がいつの間にか熟女AV女優の城エレンみたいな年の取り方をしていたが。その『今度は愛妻家』を観るための予習のつもりで近所の激安ビデオの店で『きらきらひかる』を百円で入手して観た。92年フジテレビ制作の劇場映画である。『今度は愛妻家』同様に薬師丸ひろ子豊川悦司が夫婦役で共演している。デビュー作『バタアシ金魚』で注目を浴びた松岡錠司が放った大ファール作品である。
当時私はバタ金を高く評価しつつも『きらきらひかる』を未見だった。たぶん宣伝の仕方がその頃流行したおこげものやミスターレディものと混合されていて何となく引いてしまったのだろう。本作はトヨエツと筒井道隆のゲイカップルの間に大人の事情で割り込んだ薬師丸との三角関係のすったもんだを描いた恋愛劇である。
トヨエツは大病院の医師で薬師丸は売り出し中の翻訳家である。時はバブルの最中でどちらも結構な暮らしをしているが社会的信用を考えて二人は見合い結婚をする。初めは猛反対だった筒井も次第に薬師丸とお友達関係になる。後は勝手にやったらいいじゃないどうせ金あるんだし子育ての苦労もないし。と、思うのは平民感情で持てる者たちのすることとは違う。人工授精でもいいからゲイの夫の子供が欲しい。いっそ夫の恋人の精子とチャンポンで欲しい。金なら出すからシュッとやってよみたいなことをマジで産婦人科に相談する。
イカップルとお友達関係になるキャリア女性の結構な暮らし振りを描いた本作を当時の私が見送ったのも何となくはわかる。わかるがそんな結構な時代はもう二度と来ないのだと思うと。もっと踊っときゃよかったなとも。学生身分では出入りできない高級社交場にも若者があふれていた。二十歳そこそこのまだ何者でもない男女がクリスマスの夜を赤坂プリンスで過ごしていた。今そんな男女も不細工な年の取り方をして路頭に迷ったり熟女AVに出演したりしているのかもしれないが。どうせそうなるならもっと踊っときゃよかったなとも。
今度は愛妻家』ではアイドルがグラビアでひと山当てたカメラマンのトヨエツについて行く薬師丸が事故死する。失くしたものの大きさに夫がメソメソこぼすくだりに会場はボロ泣きであった。そんな未だお気楽極楽な人々と結局同じカードを引いている自分は何なのだと思った。お金じゃ買えないものの尊さに気づかされてどうするとも。それほど踊ってないだろと。全然踊ってないだろうと。そうだろ城エレン。