タケチュウは断りきれない男である

2月25日、目黒シネマにて『僕らのワンダフルデイズ』を観る。監督、星田良子。竹中直人演じる平凡な会社員が末期ガンで余命半年と知り高校の同級生たちとバンド活動を再び始める。というストーリーがテレビや雑誌のプロモーションではほぼそのまま広まっているが本編はちょっと違う。ちょっと違うというか全然違うというかいわゆるドンデン返しの構成になっているのだが。
そうした偶然の怖さや運命のいたずらを劇化して観客を引き込むのは難しい。難病もののドラマのヒロインが売り出し中のアイドル女優でも今時の観客はそう食いついてこないのではと思うのだが。だが竹中直人が余命半年の状況下でもがき苦しみながら生き甲斐をつかむ前半部には充分な引力がある。そのままラストまで展開してくれてもいいと思える位の見事な演技だった。この秋いちばんの、感動エンタテインメント!いやまったくとフライヤーをながめる私の心にはまったく関係のない話なのだが。
阿佐ヶ谷の商店街をプラついていると何度か石田長生らしき人物とすれ違う。あ、BAHOのチャーじゃない方の人と私は好奇の眼で石田長生らしき人物に近寄ってしまう。すると石田長生らしき人物は殺意すら感じさせるギラリと鋭い眼光で私を遠ざける。何か言うんじゃないと。BAHOのチャーじゃない人程度にしか自分を知らないガヤに愛想を振る余裕なぞないんだと。
『僕らのワンダフルデイズ』のような映画が作られたり親父バンドのフェスティバルが盛んだったりする一方でキャリアのある本職のミュージシャンが置き去りにされていく現状はどうか。本作のバンド演出には奥田民生が起用されている。親父バンドが奮闘する映画で楽器の当て振りを担当してくれませんかといった仕事の依頼に石田長生はノーと答えるかもしれない。奥田民生は全面協力でイエスだったのだろう。同世代としては民生ちゃっこいなと少し気恥ずかしい。
そんなことを考えながら本作を観るとちっとも楽しくない。しかしフェスティバルに悲哀がつきもの。全然楽しくない立場の盛り上げ役はつきものである。その役どころが本作の宅麻伸である。宅麻伸をたいした俳優だと思ったことのない私だったが今になって見直してしまった。チョイ役で賀来千香子まで出演している。もしやプライベートに本作同様の深刻な悩みを抱えているのかとも。燃えつきたくないのに燃やされる立場にそれもワンダフルだよと肩をたたく人物にも悲哀はあるか。