裏切者の旅は山手線内回りである

先だって新宿TSミュージックに千葉なぎさを観に行った時のこと。受付で入場券を買いモギリの青年に手渡すと「今日は誰を?」と例によって。「なぎさちゃんを」とまた照れもせず答えると。「えっ、お休みなんですけど」とくるりの初代ドラマーのようなモギリの青年は弱り始めた。入場券はすでにちぎってしまっている。「いや、いいっスよ」と私は冷静を装って中に入ったが。なんだって表で出演者表を一度確かめないのだとくさくさと。この時点では思っていたのだが千葉なぎさが病欠したのか他に実入りのいい仕事を選んだのかはまったくわからない。なぎさちゃんはもしかして病気なのですかと問いかけたかったが。私は田中小実昌ではないし今は70年代でもない。小屋の中には五十代、六十代の壮年たちがひしめき合っていたが彼等は70年代にはまだピンピンの若者だったのだ。光陰矢のごとしというか。TSミュージックのような場は介護ビジネスのひとつだなと感ず。記念ポラを孫に見つけられたら大変だから俺ァいいよと拒んでいたお客は確かに以前いた。人間交差点だなァとまだ冷静を装って全然興味ないタレントたちのダンスショーをながめ続ける私。千葉なぎさはいつ夕刊紙をチェックしてもどこかしらの劇場に出演中で確かにオーバーワーク気味だったのだ。4月に上野でもらった記念ポラの裏側には「今日はポカポカ気持ちいい天気のお散歩日和ですね」とハートマーク付きのメッセージが。実際には連日12時間以上も地下室や倉庫のような所で肉体労働し続けていることくらいは私にもわかっていたつもりだったが。そんな立ち位置で売れっ子になってしまうのも過酷なものだとあまり売れそうもないタレントたちをながめつつ感ず。が、3人目に舞台に上ったもたいまさこのようなオバさんキャラのタレントの幕間のしゃべりの軽妙さにヒクとなる。調整室の番頭に寒くないのアンタと怒鳴りつけこの中は別にと答える番頭にこっちは凍りそうだよおじいちゃんたち死んじゃうよと、ここまでを舞台上で衣装を着換えながらがなる。その生活臭ある脱ぎっぷりに本編では無反応だった私自身が激しくエレクトし始める。大崎悠里。まさか大沢悠里が名付け親ということもないだろうがおじいちゃんいじりの絶妙な彼女に私自身はストリップティーズの奥深さというより性愛の奥深さを見たような。もたいまさこ似の三十がらみの舞姫でも生活臭と軽演劇ばりのツッコミというアレンジさえあれば。おばあちゃんの知恵袋を持つ魅惑のアフロディティー、大崎悠里を私は応援することにした入梅の日。