四年と十カ月に亘る立ち稽古である

10月31日、新宿TSミュージックにて大崎悠里引退興行を観る。初日と中盤にも足を運んだが丸ひと月の強行軍で彼女の体調も良くなく楽日の今日には咳き込みながら一回目の舞台を終了。あのお大事になどと声をかけるとアン?とザーマス眼鏡の奥の瞳が冷たい光を放った。考えたら泣いても笑ってもこれが最後の大一番なのだ。場外乱闘中の女子プロレスラーのにタランチュラさんがんばってなどと肩を叩いてボコられる少年ファンのようなことを、劇場通いも相当になるのにこういう肝心なところでやらかしてしまう。それらはまんま女性の扱いの肝心なところがまるで駄目といえまいか。この日同じ舞台に立った千葉なぎさ嬢に今週ばかりは大崎悠里さんを全力で応援させてもらいますが悪く思われませんようといった内容の付け文を渡してしまってから悪く思うわそんなもんと自己嫌悪したばかりなのに。とっとと引退すべきは私。引退興行といえば撮り納めの記念ポラに行列ができて進行が押せ押せになるのだが。客出しのリミットを守らない訳にいかないのか大崎悠里以外の出演者は出し物の半分をカットという荒技も。記念ポラは舞台に番頭が上がりそちらは一枚?二枚?と集金しながらパシャパシャ続けざまに撮らせた。「最後だから何でもやるよ!」とハイテンションで完走をめざす彼女にウォーッと会場と同化することができない。私設応援団の面々がラストで皆一斉によろしくとクラッカーを配り始める。何か児童会のクリスマスパーティみたいだなとも思ったが。いやそれよりもすし詰めの狭い会場内で熱狂的ファンがあまり熱狂的でないファンの顔面にクラッカーを誤射して大団円が修羅場化するのではと。最終回前の引退式では千葉なぎさ嬢が司会を務めた。引退ですから皆さん付の方をひとつよろしくでというささやきにそうだ冠婚葬祭だと今更気づいた。もらうところからもらって返すところには返したらトントンかも知れず。私の懐中には残り小三枚。皆いくら出すのだろう。いざ始まると小札で作ったレイが次々と彼女の首にかけられた。下手な差し入れや付け文よりずっと助かるだろうなと。せーので放射されたクラッカーは予想を遥かに上回る効果だった。チープな美術と焼煙の向こうに浮かび上がった精根尽きた男たち女たちのイイ顔。その真ん中で膝をかがめて両手を客席に差し出しワナワナ震える得意のポーズのヒロイン、大崎悠里。まるで相米慎二のアイドル映画のエンディングのよう。この一瞬のための12時間のリハーサルに耐えたような一日だった。快感。スロー画面で寒天状に客出しが。