みゆき通りはMG5臭いんである

12月21日、日比谷スカラ座にて『ノルウェイの森』(2010年東宝)を観る。監督、トラン・アン・ユン。トラン・アン・ユン監督はこれまで『青いパパイヤの香り』『夏至』といった高め安定なOL層に大受けする高級アンティーク家具のようなお洒落映画をヒットさせてきた俊英である。
60年代の東京でくすぶる若者たちの青春群像を大森一樹ではなくアジア映画界のホープにメガホンを取らせる形で『ノルウェイの森』はとうとう映画化された。そこに拡がる世界とは『ブラックレイン』に登場するような見たことありそうで全然ない不思議な国、日本なのかなとも思ったが。
本作に現れる60年代の東京はそれよりもポップで無味無臭といったらよいのか。下北沢の街並のような小洒落たリフォームが施されたあったような気もするが何かが足りない60年代というのか。じゃあ何が足りないのかといえば例えばくみ取り式便所の臭気であったり玄関先で俺は昨日刑務所から出てきたところだがとすごむ物売りであったり。そうした低め安定な庶民の暮らしぶりはまったく登場しない。
原作ではよく伝染病が発生しなかったと思うと描かれたワタナベの住む学生寮もなかなか格好よく見える。ねぇワタナベ君、ここに住む人たちって毎晩マスターべションするの?あぁ、するだろうねという例のやりとりもまんま出てくるがちっとも不衛生な感じはしない。もっと不衛生に男おいどんの世界を真正面から描いたような『ノルウェイの森』を私は観たかったのかどうか。男おいどんの世界なら今も目の前にあるじゃないかとも。
下北感覚の『ノルウェイの森』にてワタナベの先輩、永沢さんを演じるのは玉山鉄二である。原作中のある面では紳士でフェアだがもう一面ではどうしようもない俗物というくだりの俗物味がやや強調された永沢さんだった。いきなりヘアメイクが橋本龍太郎伏見直樹の若かりし頃のような劇画調の泥臭いみゆき族といった感でいかにもひとクセありそうというか。
『ある意味でハマリ役ともいえる永沢を、玉山鉄二はスタイリッシュに演じてみせる』と紹介していたライターはどこかに気を使っているのではないか。ある意味でとはどんな意味かといえば永沢さんて結局、橋龍伏見直樹みたいなあの世代のあれな男として描きたかったのだろうと思う。私は玉山鉄二ってあの世代のあれな男のフィギュアみたいだなと思う。全編広東語で吹替えし「無縁社会」と改題してみては。