ホメ殺した後が残った者の課題である

1月7日、渋谷ユーロスペースにて『ゲゲゲの女房』(2010年水木プロダクション)を観る。監督、鈴木卓爾。NHK朝の連続テレビ小説ゲゲゲの女房』の映画版である。
テレビ版では極貧生活から水木プロダクションの黄金期までが描かれていたが本作の時間軸はその半分の半分くらいか。極貧生活の中でふたりだけの水木プロダクションが少しずつ少しずつ金脈、人脈らしきものをたぐり寄せたかといったところで映画は終る。
柄本佑演じる若手編集者が宮藤官九郎演じる青年、水木しげるの前に現われ仕事を依頼する。以前に作風が暗いと没にされたこともあってあまり乗り気ではないしげるだが。編集方針が変わったのです、これからは水木先生のような方に自由に描いていただいてですねなどと持ち上げられてつい引き受ける。
ふたり水木プロダクションによって徹夜作業の後に明朝ほんじゃま行ってくるわ、いってらっしゃいと原稿を抱えて出かける夫を見送る妻。で、その原稿こそが水木プロダクションの黄金期の幕開けを飾るのであったという説明はない。これはこれでいつもの下流漫画界の話半分の半分くらいのセコイ仕事だったと思えなくもないラストシーンであるが妙に印象的である。
本作もまた『ノルウェイの森』に負けず劣らず昭和原風景のインテリアとファッションに細部までこだわり抜いている。質屋通いも日常茶飯事、食パンの耳も大切な食糧源らしい当時の水木プロの暮らしぶりは今見るとスタイリッシュである。こんな結構な極貧生活なら金を払ってでもしてみたいと思う観客も多いだろう。
もちろん現在ではアンティークとして価値がある生活雑貨をその筋から収集してセッティングしたのであろう。こんな撮影現場に意識の低い若いスタッフがいたら貴重な小道具がいくつも紛失していたかもしれない。いや、そういうことが起きないように制作は水木プロダクション、『ゲゲゲの女房』制作委員会が仕切っているのかとも。
で、そうしたスタイリッシュな昭和原風景が映画の半ばで突然現在に放り出される。奥さんこの返本の山見てよと稿料を受け取りにきた妻に嫌味タラタラで約束の半分の金を差し出す出版社の社長の元から泣きながら走り去る妻。その妻、布枝が飛び出した街には高層マンションが建ち並んでいる。これは意図的なハズシだと思うが。この悪徳な出版社の社長は今もこの界隈で悪徳な事業を展開中なんですがねといったメッセージかとも思ったが昭和三十年代に青年水木しげるをいびり抜いた悪徳社長って今いったい何歳なのかとも。それ以上は映画でも言えないのか。