一番好きな男優はケンケンなのだが

1月21日、郷里の実家に転居するため荷物だけを日通の単身パックで運び出した後のこと。ま、映画でも観てから高速バスで帰るかと歩いて銀座まで。シネパトスにて代々木忠の「知られざる波乱の人生」をドキュメントした『YOYOCHU』を観る。思えば今から二十余年前、高校卒業後にひとり暮らしを始めた当初こそがヨヨチュウの黄金時代の幕開けだったような。
その頃の銭湯の脱衣場にはポルノ館のポスターが。堂々と貼られていた。ただでさえ人前でパンツを下ろすのもブルっていたティーンの頃。そのパンツを下ろすに下ろせなくしてしまうヨヨチュウ作品のポスター群が私はうらめしかった。そのせいかヨヨチュウのビデオにはその後も観て観ぬふりを通してきたが。
本作で師弟関係、家族関係からあぶりだされるその波乱の人生の中でおののいたのはやはり上昇期のウハウハぶりか。本来なら「長者番付にのっかってもおかしくなかった」程もの巨万の富を確立したというバブル真只中。私のような半妖怪ですら人様並みに夏のボーナスと呼ばれるものを一度だけ受け取った。当時のバイト先はこの前獄死した方じゃない連赤の重要女性メンバーが働いていた新聞社の使い走りだった。が、まったく記者には可愛がられず誰も近寄らない資料室の片隅でたまにコピーをとらされるだけの仕事。一日で文庫本が一冊読める半妖怪向きの仕事でもその夏に特別手当だと8万円もらった。
当時の私がそのことを何か変だと思わなかったのと同様にヨヨチュウもまたこの勢いで経済界に殴り込みをかけようとする。中近東を拠点に訳のわからない事業を急速展開させようとして多額の借金を背負ってしまったのはエロ業界の人間として扱われることに耐えられなかったからとか。今の勝ち組に同じ悔しさのようなものはないのかとも。ラブグッズで成功した社長がパーティで素通りされて舌打ちするのは何業界の大御所なんだろうかと。
つまりヨヨチュウとその時代にはエロ業界の成功者は長者番付もスル―させられてしまう程の鬼っ子だったのかと。VHSがベータに勝ったのも「関西のあるメーカーさんが」VHSデッキにおまけソフトとして本番シリーズやザ・オナニーシリーズを採用したことが決め手になったという史実。経営の神様になりそこねたヨヨチュウがオカルトがかってきた頃のチャネリングファックシリーズなど私はもちろん恐ろしくて観れなかったが。まだ家出少年のような加藤鷹は他の監督のAV作品で覚えている。今どきの四十男には思いもよらぬノスタルジーを記憶の果てから呼び戻す好作。