円形脱毛症は案外パンクしている

2月7日、アパートの押入れに残った粗大ゴミを業者に引き渡すためだけに再度上京。約束の時間に必ず御本人様が直接などと電話口で念押しされたが。少し前に三十代の会社員がガンプラのコレクションを勝手に処分した同居の両親に腹を立て自宅に放火したとかいうニュースを思い出した。その日私が処分したのは壊れたラジカセとミニコンポとビデオデッキが計13台。修理に出すより買った方が安上がりと言われるままにこの有り様だったが。東南アジアを旅行中に中古屋に売ったかつてのマイカーを目撃などという話は聞くがいつか異国の蚤の市でこのオーディオ群と再会できるだろうかと。目印は亜無亜危異のステッカー。さて、再び郷里に戻る前に映画でも観るかとシアターN渋谷へ。川口潤監督作品『kocorono』が上映中だった。本作はキャリア二十余年のパンクバンドであるブラッドサースティ・ブッチャーズのドキュメント映画だ。87年に札幌にて結成。90年代初めに上京後は国内海外のアーティストからも聴衆からも「絶大なリスペクトを受ける」孤独な巨頭バンドなのだが。メジャー契約まで十余年かかったいきさつをMTV出演時には聞かれても語らず街のレコード屋さんに並びたいですよそりゃ僕らもなどと明るく答える。それが今から十余年前。街のレコード屋さんの多くが消滅しつつある現在のバンドの内部事情は相当なもの。いきなりライブの打ち上げでひとまず届いている契約書にはサインをさせてから費用と人員の削減について説明し始める事務所サイドに居酒屋のおしぼりを叩きつけるフロントマンの吉村秀樹。医者から酒は止められてるがなとライブのMCで笑ってられぬ男の笑顔を見せる姿は悲痛。世界中のフォロワーが終結すればSMAPのドーム公演に負けない動員があるはずなのだ。が、地方の屋外イベントの様子は地元のノンブランド校の文化祭並みにすかすかである。吉村秀樹は駐車場のワゴンの中で気を失っている。これ以上飲ませたら死んでしまうと周囲は気が気じゃないのだが。中堅クラスで伸び悩み中の演歌歌手みたいだなと彼等の故郷である北海の大荒波の実景の凄まじい様子に思った。そういえば苦節十余年後のメジャー契約先はキングレコードである。所属レコード会社と舞台裏の悪戦苦闘ぶりだけならほぼド演歌の世界かと。しかもこの様子だとまさかの特別ヒットが出るとすれば五十代にもつれ込む予感。例をあげるなら『孫』か『おやじの海』だろうか。世界を駆けめぐる個人商店らしい栄冠がいつかその頭上に輝けばと。