彼女の川田へのアプローチというのが

6月28日、いまおかしんじ監督作品、『たまもの』(04年新東宝・国映)をDVDで観る。主演、林由美香。舞台はとある漁村。林由美香演じる失語症プロボウラー愛子は根城にするボウリング場のオーナーと不倫関係にある。が、ある日知り合った郵便局員の若い男川田と飲めない酒を交わした晩から恋人同士に。その後は手作りの弁当を川田の職場に連日届ける愛子だが。川田の方は普通じゃない愛子と付き合っている自分を恥じているのか誰にも紹介しないまま生活費を工面してもらったり。
DVD特典の初日舞台あいさつに登場する川田役の吉岡睦雄はイケメンにあらずチャラ男にあらずまったく普通のボンクラ青年なのだが。撮影前に自分のようなただの男が映画に出ていいのかと監督に正直打ち明けると酒場で優しくなだめてくれてと涙ぐむ場面にはグッときた。
普通じゃない女を不倫相手に選らんだり人目をさけて付き合ったりする男たちは一見自己中心的で誰かを裏切りながら生きている。が、それはどこにでもいるごく平凡な人間たちなのだ。そのどこにでもいるボンクラ青年の川田を狙ってる職場の同僚のOL役を映画初出演の華沢レモンが演じている。彼女の川田へのアプローチというのがいきなりこずき回したり飲み会のテーブルの下で股間をまさぐってきたりと幼稚で乱暴なのもいい。いかにも田舎の元ヤン風でとてもデビューと思えぬハマリ役。
後半でボウリング場のオーナーの妻が愛子の前に登場するがもちろん人情沙汰になど発展しない。ごめんね、あの人頭おかしいのよ。別れてくれる?もうホテル行かない?と喫茶店で申し訳なさげにきり出す妻にコクリとうなづく愛子。よかったアンタいい人でと感謝する場面のナマさ。普通の主婦は大方こんなものかと。どいつもこいつもサイテーなのではなく皆フツウなのだ救いようもなく。
そんな人間模様の中で唯一己にも他人にも筋を通し続ける愛子だけが最後に手を汚してしまう。別れ話もまとまった後で最後だからもう一回とまたもフツウに求める川田をいったんは受け入れ翌朝気づくと殺害してしまったのだ。今にしてみれば林由美香セミドキュメントのような本作を追悼特集が各地でかかっていた頃は観れなかった。演じているのは林由美香のもっとも得意とする堕天使キャラだが。
本作あたりでその路線もそろそろ苦しげというか。このままくたびれ果てた堕天使を演じ続けていたらどうなっていただろうか。名作との評価も高い本作を今頃こっそり観た理由は林由美香の急死と本作は抱き合わせ企画のように思えたから。それじゃフツウか。