7月10日、『トルソ』(09年トルソプレゼンツ)をDVDで観る。監督、山崎裕。都心の結構なマンションに一人暮らしの三十路女を演じる渡辺真起子には一回り下の妹がいる。こちらを演じるのは安藤サクラ。妹はアパレル関係でそこそこのキャリアを持つが現場では付き合い下手のいけてない年増といった評判。妹は公告写真の現場でアシスタントをしているが本当は企画も出しているのにネタだけ盗まれ使い捨てられようとしている。
電車で2時間強ほどの実家には二人ともあまり帰っていないが父親が倒れてから不安になった妹は姉のマンションに転がり込み一度一緒に帰ろうと勧めるが。姉の渡辺真起子がどうして両親と縁を絶っているのか説明はされない。されないが渡辺真起子の終始ブス暮れた冷血振りを観ていると地方からやってきてオシャレ業界でなりたい自分に辛うじてなれている自分をキープするのに精一杯なのがわかる。妹の方は仕事よりも同居中の恋人のDVに悩んでいて生活の面倒は姉にすがりたい様子。
さてトルソとは何ぞや。それはメンズショップのマネキンの胴体のようなものでゴム製のいわば空気人形。男性器はさほどリアルに造り込まれていないが姉役の渡辺真起子はこのトルソと性交したり海へドライブしたりしている。本作の劇場予告編ではその性癖を妹に知られてしまうがどうかで引っ張る内容かと思われたが本編では違う。オープニングを過ぎたところでトルソは妹に見られてしまう。デザインの発案に使うのだと言い訳する姉だが妹の方は好きにせいやといった。この辺も妹役が安藤サクラだから思いやりがあるのか人間嫌いなのかわからない感が残る。
キャスティングだけでほぼ出来上がっている。が、シックな秀作と持ち上げていいのかどうか。音楽も効果もほとんどない画面の中でささやき合うような台詞を交わす登場人物。都心の結構なマンションに住むクロワッサン流の手料理もなかなかいけそうなオシャレ業界の三十路女の意外な心の闇を描くというか。それはシックな秀作なんじゃないかと思う向きには市川隼の『病院で死ぬということ』なんかもシックな秀作で?
ラブグッズだけが恋人と思われた姉がクライマックス近くで割とあっさり行きずりの男と関係してしまう。たまにはナンパもされるけどそれだけのことという点に終始ブス暮れている女なんであまり深入りしない方がいいですよというムードは渡辺真起子のルックスからも伝わる。商品化されなくもない程度の自身の性的魅力のしょぼさに先に突っ込まれると逆上する女。渡辺真起子は秋本奈緒美をしのぐかなと。