『人間失格』とどっち借りようかなと

2月26日、『ヴィヨンの妻〜桜桃とタンポポ〜』(09年フジテレビ)を観る。監督、根岸吉太郎。脚本、田中陽造。原作は太宰治で本作が公開された年は太宰ブーム再燃の年だったようなそう盛り上がらなかったような。『人間失格』とどっち借りようかなと思い松たか子の主演映画なんてまだちゃんと観たことないなとこっちに。デビュー当時の執拗な松たか子へのバッシングの理由がいきなり主役級の立ち位置で高額なギャラを稼ぎまくっているかららしいと知った時にはじゃあ緒形直人はと思ったが。昭和二十一年のまだローカル線の旅番組を観るような三多摩地区。東北人は中央線沿線に住むとほっとするというが。太宰自身がモデルということに映画上でも設定されている新進作家、大谷。金のある時だけ大判振る舞いしてその後三年はツケで飲みまくり売り上げをくすねて遁走する大谷を支える妻役に松たか子。借金返済のために子持ちであることを隠して酒場の看板娘に。美人が入ったねチップだ気持ちだと酔客から紙幣を握らされる妻。私ってお金になるんですねと満更でもないところへ現れる夫の女。元は金持ちの二号、大谷を見染めて全面協力した後無一文に。演じる広末涼子がヘアメイクの悪ノリか昭和の毒婦そのもの。前半30分程でやっと始まる夫婦の濡れ場。全然興味ない松たか子の乳首でもお義理で見ておきたいのは。何のお義理だ、とも。大谷は売れ始めると僕はもう死にたいんですよと売り文句のように取材記者にこぼす。バブル期のヴィジュアル系アーティストも同様なことを言っていたしもっとマイナー系アーティストは演者も観客も下手すりゃ死ぬようなパフォーマンスを売りにしていた。が、自殺願望が売りになった時代の第一走者は浅野忠信演じる大谷。その大谷は売れてますます家庭を放り出す。が、孤独な妻の元にはあちこちから訳あり訳なしの男たちが。その中の一人、妻夫木聡演じる大谷ファンの文学青年を尾行する大谷。他人のものを盗むのは平気だが自分のものを盗まれるのは冗談じゃないと大谷が焦りだしたのは自身がもう飽きたむさぼりつくしたと思っていた女に自分のような人非人には気づかない値打ちがあったとしたら冗談じゃないという思いからだろう。本作が太宰の原作にどのくらい忠実かわからないのだが。結末は妻への感謝状のようにあれで結構あちこちからあったんだよと。お義理でそのように小説作品に残してもらえば「大谷の妻」も満足だったのか。なるほど本作の松たか子は終始そんな女に見えると私もお義理で。何のお義理だ。