映画の初めから終りまでおラこらオラ

3月3日、最寄りの図書館にて『ワールドアパートメントホラー』(91年ソニーミュージックエンターテイメント)を観る。監督、大友克洋。主演、田中博樹。田中博樹と聞いてもどんな俳優だったかすぐ思い浮かぶ人は少ないのでは。私も知らなかった。当時の本作のプロモーションでは主演は中村ゆうじであるかのような押し方だったような。中村ゆうじ以外のキャストは無名時代の出川哲郎の他はいずれも素人然としたアジア人たち。安アパートに密集した出稼ぎ労働者の住民らを地上げに伴って追い出そうとする暴力団員が中村ゆうじ田中邦衛。先に乗り込んだ兄貴分の中村ゆうじが何かにとりつかれた様に退去してしまう。シャブで発狂したのかと仕方なく二番手を引き受けるのが弟分の田中邦衛。チンピラ役だから無理もないとはいえ映画の始めから終りまでおぅこらオラオラと怒鳴り散らす田中博樹は気の毒。終始怒鳴りまくるせいで下手に見える。いきなり主役を勝ち取った時はもらったと思ったのかもしれないがこんな役断っていればもう少しいけてたのでは。江戸アケミイチローをミックスした様な風貌は今の方が引きつけられるものが。子分衆がオシャレのつもりで着ている背中にゴチャゴチャ横文字の並んだ半分レザーのスタジャンが時代だなと。田中博樹の情婦役の太眉ボディコン女もまた時代。今こんなルックスのコンパニオンにぶら下がられてもトホホだろうか。俺はこれじゃなきゃだめなんだと今時の若い娘に無理やりオヤジギャルの扮装を金に物言わせて押しつけている中高年もいるかもしれない。本作はタイトル通りホラー映画なので見たこともない俳優の結構な熱演というのは不気味な効果にはなっている。が、持久戦の退屈さからチンピラ達が住民らと麻雀したり酒やカラオケに興じたりするくだりから何だか下町人情喜劇のように。だが時はバブルの最中。金満社会のあぶれもの同士が幽霊の棲む安アパートに致し方なく共存している有様が世間一般からは充分ホラーだったのかもしれない。本作に登場する風呂なし共同トイレの安アパートとほぼ同じ造りの住居に私は一年前まで生活していた。水洗トイレの吊り下げ式グリップもほぼ同じ。いや映画ではひねり式かアクセル式だったか。私の周りの方がまだホラーだったか。当時は恐怖の館である本作の安アパートも今ならオシャレのつもりで住みたがる金満な外国人もいるのでは。プロモーション時の大友克洋が何やらぎこちなさげだったのもわかる不発弾的内容の本作だが案外モード映画として再評価されたり。