できてませんよ友だちですから

10月24日、山田太一作品集13『友だち、深夜にようこそ』を読む。『友だち』は87年NHKドラマ人間模様で6回にわたり放映されたもの。私は1回も観ていないが当時の予告がずっと気になっていた。河原崎長一郎演じる航空整備士の中年男と倍賞千恵子演じるパート主婦がバードウォッチングをきっかけに友だちになる。すると両方の配偶者や母親、ご近所などからあの二人はできてるんじゃないのかと噂が立つ。できてませんよ友だちですからと河原崎と倍賞は主張する。が、河原崎の方はできてませんけどできないことは残念に思ってるようなことを大真面目に周囲に説明する。倍賞の方はできてませんけどそんな気配は感じなくもないのでこれからは逢わないようにしますなどとこれも大真面目に夫に話す。本編を観てなくても何となく引き込まれる展開だ。もし河原崎長一郎倍賞千恵子のコンビ以外が演じていたらかなりいびつで狂気じみたドラマになっていただろう。そして互いの配偶者に友だちであることがバレた二人はならば残る二人も友だちになりなさいとデートを勧める。言われたとおり残る二人である井川比佐志とうつみ宮土理は銀座を歩いてみたりと友だちスワッピングを敢行するが面白くもなんともない。こんなことをしたからっておあいこにはならない。「立派な不倫よ。しゃべってるだけで楽しいなんて、立派な不倫!友だちだなんて綺麗ごと言わないでよ」と怒りだすのは河原崎の妻うつみ宮土理うつみ宮土理は河原崎に隠れて井川比佐志と銀ブラしても面白くもなんともないが河原崎うつみ宮土理に隠れて倍賞千恵子と野鳥をながめてるだけで充分楽しいということが下手な試みの勢いで骨身に沁みて分かってしまったのだ。結局これからは夫婦同士で付き合おうと四人でハイキングに行くが。途中で河原崎がグズついてやっぱりこの人はあなたの奥さんだと思ったらつらいなどとまた大真面目に打ち明けてとうとう井川にぶん殴られる。これがシリーズ第6話のほぼクライマックス近く。冷静に聞けばふざけたこと他人をなめきったことを大真面目に説くからつい周囲も引きずられてしまうキャラクターとして河原崎長一郎は相当な手練れ。その後こうしたキャラは『ふぞろいの』の中井貴一に引き継がれたが。言うべきことは言わせてもらうような態度で何を言うかと思えばぶん殴られても仕方ないようなことを言う。昭和の名作ドラマには確かあったなと感じる男性像。鶴田浩二と同じトーンでまったく筋の通らない私情を吐き出す河原崎長一郎アンチヒーロー喜劇王なのか。