タナダのあの以前の激しい怒りは

11月28日、テアトル新宿にて『ふがいない僕は空を見た』(2012年 東映)を観る。監督、タナダユキ。地方都市の高校男子がアニメファンの近所の主婦に誘惑されてコスプレしながら情事にふける。不妊症の主婦は姑から責められるストレスから高校男子の体を求めたのだが。高校男子には意中の同級生がおり向うから告白され付き合い始める。小遣いまでもらっていた主婦には別れを告げた。その頃すでに主婦の異変に気づいていた姑は探偵を依頼してコスプレの現場を動画に収めていた。その動画がネットに流出して高校男子は狭い田舎町のさらし者になり主婦も町を逃げ去る。『俺たちに明日はないッス』同様、向井康介脚本を得たタナダ監督の行き止まり青春群像。アニメファンの「バカでヤリマンで不妊の変態主婦」の配役には田畑智子。去年であったか突然男性誌にヌードグラビアを発表した時はコレ受容も供給もないだろと思ったがやはりあったのだ。田畑智子は官能キャラではまったくない。ないものは欲しがっているに違いないといった憶測に世の殿方はいきり立っているご様子。「バカでヤリマンで不妊の変態主婦」にはさしたる美貌も豊満な肉体も不似合い。むしろないないづくしの方が好都合、ですね世の殿方と踏んだタナダ監督の男性観が怖い。怖いが周囲の人間を己の不幸の巻き添えにしながらも性欲だけは一丁前のダメ男の転落劇を描くタナダ監督もまたそうした男社会から抜け出そうと日々もがいているのでは。リヴっ気満々の女流監督といえば国内ではタナダユキ以外思い浮かばないのはなぜか。フェミニンな視点から撮っている他の女性監督よりタナダユキの目線は下世話で生々しいだけ男にとって痛いのだ。研究材料としてのコミカルなダメンズではなくマザコン、ド早漏と実害を次々えぐる本作は若い女性中心にまずまずのヒットのよう。これでタナダ監督は人気小説を平穏無事に映画化できる職人監督にまた近づいたはず。いずれは織田裕二中山美穂が異国を舞台に現実離れしたラブロマンスを展開するような大作を任される日も来るのでは。どこに向かって日々もがいているのかといえば嬉し悲しそこに向かっているのでは。タナダのあの以前の激しい怒りはどこへ行ってしまったのだと評論家たちにコキ降ろされる鉄面皮な大御所に早くなってほしいと私は思う。下世話なリヴ映画なぞこれを機に渡って何を撮ってほしいかといえば任侠映画に新風をと期待してしまう。今更『極妻』でもないだろうと言われそうだが正味なところの嬉し悲しなタナダ監督の行き先はそこにあるかと。