そんなものはちょっと調べて元曲も

12月4日、『夜のアルバム』八代亜紀ユニバーサルミュージック)を聴く。今年の6月から8月までの間に録音された矢代亜紀初の本格ジャズアルバム。八代亜紀にもクラブや米軍キャンプで歌っていた少女時代があったとは知らなかった。雪村いづみや伊藤ゆかりらの世代までにはそんなエピソードも聞くが八代亜紀もぎりぎりそんな時代を通過していたよう。本作のプロデュースは小西康陽。小西プロデュースでジャズのスタンダードと昭和歌謡を今に再現と聞いて私は勝手に『シャボン玉ホリデー』の世界を最新技術でギンギンに展開するものと期待したが。そっちを期待した向きには本作は地味というかシンプル。ビッグバンドというより救世軍バンド。音数も少ないうえにボーカルも抑えめのささやき、ウィスパーボイスというのか。拍子抜けのようにも感じられた。が、今また小西康陽の手腕による捏造されたもう一つの『シャボン玉ホリデー』の世界を聴きたかったのかといえばどうか。制作側は去年の由紀さおり昭和歌謡の最新リメイクを今度は国内でとも考えたのかもしれない。小西康陽は今そういうものをつくる気がしないのかとも。なかにし礼作詞、 村井邦彦作曲による68年発表の「ただそれだけのこと」を聴いていてそう思ったが。“お別れをする日がきたら 微笑んで別れましょう 他人行儀にすまして さよならを言いましょう それだけのこと”初めて聴くが誰のヒット曲なのか。そんなものはちょっと調べて元曲も聴いてみればいいのだ。小西康陽が今つくりたかった『ただそれだけのこと』はこっち。ただそれだけのことなのだ。そういえば私は去年の由紀さおりの大ヒットアルバムにはショップの店内放送にクラっときたにもかかわらず入手できなかった。その時からもっと濃厚な純国産の昭和スタンダードを誰かリメイクしてくれたらと期待していたのかも。八代亜紀小西康陽と聞いてクラっと飛びついたものの予想外に大人しい本作を聴いた今は違う。『夜のアルバム』はこれでいい。『私は泣いています』を夜な夜なベッドでショボくれながら聴いていればいいのだ。音楽だけギンギンでもしかたないでしょうとなるべくスッとした表情で言えたらいいのだ。誰に?由紀さおりに?いや、そうは思わないが。などと一人ごちている間にも音楽業界は変動しているのは確か。来年には小西プロデュースによる『ロッテ歌のアルバム』が予想通りの濃厚な昭和臭を放って発表されないとも限らない。思い出した。ピチカート時代からこの人嫌いだった。