80年代後半のこと、まず処女を60万で

1月22日、『監督失格』をDVDで観る。去年リリースされた劇映画でAV監督、平野勝之と女優、林由美香のプライベートを綴ったドキュメント。監督が不倫相手の林由美香を北海道までの自転車旅行に連れ出し道中泣いたり笑ったりつい手を上げたりすぐ謝罪したりの内輪ドラマである。が、まったく同じ素材でこれまで二本も同じような作品は制作されている。本作がその総仕舞として世に出たのは林由美香が自宅マンションで遺体で発見される現場を撮った素材の使用許可が下りたからだろう。許可したのは林由美香の実母である。これまで林由美香の実家は都内で中華料理店を経営しているとだけ公表されていた。本作ではその店主のお母さんも顔出しで登場する。お母さんが経営していたのは『ふぞろいの林檎たち』に出てくるような大衆中華かと思えば有名ラーメン店の野方ホープだった。けっこうなお嬢様だったのだ。で、その実家を追い出されて六畳一間の安アパートをこれも両親に用意してもらってから林由美香のやさぐれ人生は始まる。80年代後半のこと、まず処女を60万で売ろうとしたが結局20万にしかならなかった話、愛人手当をとぼけ始めた男に知り合いの暴力団を回収にやらせた話、それでもエロ業界には助けられたとしみじみ語る素顔は幸せそうに見える。エロ業界で夢を叶えた成功者としての持ち上げられようは飯島愛にも似ている。飯島愛の真実みたいな素材はあまり観たくないと私はなぜか思う。林由美香にはまだ秘蔵ネタがあると言われればそれは観たいとなぜか思う。やらせってことはないですよねと本作中にスタッフが監督に問いかける場面がある。林由美香の変死が実はやらせで捏造ドキュメントを自分たちは作らされてるのではという意味かと私は思ったがもちろん違った。こういう結果を予測して末期の林由美香を追いかけていたということはないですよねという意味だ。それはやらせじゃないだろうと私は思う。遺体の発見現場にはお母さんも同行している。何やってんだようと泣き崩れ嗚咽している。やらせってことはないだろうと私は思う。だが臨終シーンの使われていない前作までは私もスタッフと同じようなことを考えていた。本作の臨終シーンを観てその考えを改めたというよりもうそんなことを考えるのも嫌になった。新聞、雑誌はあることないこと書き立てたが死因は酒と睡眠薬による事故死だったというテロップにはお前もそんなところであることないこと書きたいのかと問われたようでギクリとした。私なぞ所詮はただのワンフ。他力本願のアンコールはワンフ失格か。