もっと昔のものならと『新人類図鑑』の

3月7日、銀座シネパトスにて『インターミッション』(13年オブスキュラ)を観る。監督、樋口尚文映画批評家樋口尚文が今月末に閉館する銀座シネパトスを舞台に撮ったパーティ映画だ。80年代半ばから批評家として活躍してきた樋口尚文の監督デビューを応援する映画人たちが閉館を惜しむ観客役として大勢出演している。樋口尚文が学生時代に撮った自主映画が大島渚大林宣彦に評価され映画批評家としてスタートしたエピソードくらいは私も知っていたがそれから今日までにこれほどまでの人望を集めていたとは知らなかった。本作にヒットマン役で出演している利重剛とも学生時代からの映画仲間だ。利重剛みたいに子供の頃から映画界の空気を吸って育ち著名な監督や俳優に可愛がられてきたということなのか。樋口尚文の家系のことなど今更言わずもがななのか本作の資料には出てこない。もっと昔のものならと『新人類図鑑』のプロフィールを読み返しても“1962年唐津市生まれ。幼少のミギリから映画に親しみ、上京して私立芝高に”としか記していない。樋口尚文が幼少のミギリから映画界の超お坊ちゃまでなければ本作は「なだたる映画人、テレビマンから賛辞が」寄せられることもなかっただろうか。閉館の迫るシネパトスの支配人、秋吉久美子とそのダメ亭主、染谷将太の周りに集まる物騒な観客たち。痴話ゲンカあり人情沙汰あり爆弾テロありの非日常の合間、インターミッションのなかの観客同士のささやきを寸劇仕立てにパックしてつなぐ構成は案外新鮮で楽しい。小山明子水野久美古谷敏竹中直人らが通りすがりの映画好きに扮して語る与太話の中には今だから語れる業界裏事情が隠してあるようで招待客は肩をぶつけ合って苦笑していたが。私には竹中直人演じる失業中の元流行監督がその出世作『笑う原爆』を二百万で撮って三十億稼いだと語る場面だけ『笑う原爆』は『太陽を盗んだ男』の最初のタイトルだと気づいた程度。このくらいは初級クラス向けの練習問題で私なぞ本作に隠されたそんな裏ネタをすべて解読してたら一生かかってしまう。私の上京当時銀座シネパトスはポルノ館であり映画の学校というより大人の遊園地であった。裏ネタはすべて解読不能のうえ畑中葉子香川京子小山明子に並ぶ昭和の大女優と思い込んだ映画学校生に未来はあるのか。ないとは言えない。森下悠里より畑中葉子に数倍反応してしまうならそれも恐るべき若き才能である。「映画は何でもあり」なら映画史とやらもそれこそ個々に好きなように再編集してみてはどうかと。