ある日フイに映画を作りたい情熱が

11月17日、長谷川和志 著 『アビル少年映画をつくる?―多分これから―』(ビッグコミックス)を読む。本作は『ビッグコミックスペリオール』に13年第5号から連載された第1幕から第9幕までをまとめた単行本第一巻。関西地区のどこか田舎町にあるひなびた学園が舞台。そこに集まる生徒らは知力体力オタク性不良性いずれにおいても特に目立つところなくダラダラと日常をやり過ごしている。主人公の阿比留はそんなダラけた学園の一年生。ある日フイに映画を作りたい情熱が沸く阿比留は仲間を探し始める。周囲の無気力学生の中で唯一運動部でもないのに常に体育館裏で無闇に一人体を鍛え上げているアフロ髪の同級生春日に目をつけて出演交渉する阿比留。「ジャッキー的なやつじゃないと出んからな」と主張する春日に対してまだどんな映画を撮るかも決めていなかった阿比留はそれならジャッキー的なカンフー映画を撮ろうかと春日にすり寄る。春日の肉体のインパクトに触発されて映画作りを決意したので春日のセンスにゆだねるのも満更ではない阿比留だがその春日のセンスも疑わしい。「戸棚の奥のアレの賞味期限を忘れるな」だの「お前にそれが必要やったら奪い取ってこい」だの名言めいたことを快男子然とした春日が口にすればその場は説得力がある。が、空回りもまた信条と見える山本太郎チックな春日の美学と阿比留の貧しい映像感覚だけでは先へ進めない。そこで阿比留は学園内でたった一人の漫研を運営する石橋に絵コンテを描かせ、いじめられっ娘の同級生野沢を女優に迎えて本格的な映画作りをスタートさせる。すべてにおいて目立たない校風の学園内でも比較的イケメンで女子の人気を集めたがる同級生の西野は何やら目立つことを準備してそうな阿比留たちを憎悪する。その西野が地元の不良グループに春日の私刑を5万円で依頼する場面で第一巻は終わる。誰もが特に何の才能も持ち合わせていなければ競争する必要もない状況でそれでも何かやろうと貧相な旗を掲げた集団が出現したとき、そのどうでもいいような旗をひとまずへし折りたがるのは田舎紳士の西野だけというくだりは生々しい。本作はハッキリ言って作風も構成も貧相である。だが主人公の映画作り同様「不完全なトコ隠さへん」姿勢が脱ぎっぷりと愛嬌だけで勝負する健気なストリッパーのようでそこに妙な味がある。上野オークラで上映されるピンク映画、それも駆け出しの新人監督のどうにもつながらない展開の野心作のような作風を著者はキープしてほしい。つながったら無味乾燥なのだし。