本作は戸川純芸能生活十周年を記念

12月14日、戸川純の『昭和享年』(89年テイチクレコード)を聴く。川越美和の『どうぞこのまま』に少しばかり胸が震えたもののやっぱりカバーといえば戸川純だよなと思いつつ。本作は戸川純芸能生活十周年を記念して制作された昭和歌謡(当時は懐メロと呼ばれていたが)のカバー集。『星の流れに』、『東京の花売娘』などに始まりシングルカットされた『バージンブルース』、カバーとしては一番乗りかもしれない『リボンの騎士』、ラストは坂本スミ子の『夜が明けて』で見事にシメる。全6曲でプロデュースは上野耕路平沢進が3曲ずつ担当している。当時すでにCDだったのにビニール盤の針音ノイズをわざとかぶせたり『アカシアの雨がやむとき』では機動隊の呼びかけをまんま効果音に使ったりしてやりたい放題という感じ。戸川純は実にやりたい放題だったなと思う。80年代に青春期を過ごした私があの時代を振り返るとき、当時いちばん夢中だったはずの戸川純をスキップしたくなるのは何故か。それはあの時代の戸川純のやりたい放題ぶりとそれに呼応して自分も何だってできるつもりではしゃいでいた過去をまざまざと思い出してしまうからではないか。人気絶頂時に何冊か出版された戸川純のいわゆるタレント本の中でしきりにこぼす自身のファンとの付き合いの難しさについては今読み返してもチクリとさせられる。大概のファンは戸川純の前では自分も不思議ちゃんぶってからみたがるが珍しくもないので適当に受け流していると勝手に傷ついたり怒ったりして去っていくという苦言に今もいたたまれなくなるのだ。戸川純のくせにアタシの(ボクの)強烈な個性に反応しないのかよなどと思い上がりもはななだしい、私もそんな軽率なファンの一人だったろうから。坂本スミ子の『夜が明けて』は元々エスニックなアレンジだが戸川版は完全にアンデス民謡調でやはりやりたい放題。おもしろいと思ったら躊躇なくいただいちゃう人なのだなと感ず。何に躊躇するのよと問われればそれは呪縛とか祟りのようなものですがと私は今の戸川純に言えようか。アンデス民謡の何がどう祟るのよと問いつめられても応えようもなく勝手に傷つくか怒りだすのだろう。私は未だに戸川純のいちばん面倒くさいファンなのだ。『あまちゃん』に出てそうで出てない80年代サブカルスターはいくつも思い浮かぶが戸川純はどうかといえば私もまだ時期尚早かと。『あまちゃん』は震災を描いても原発事故には触れてもいないと最近になって週刊誌の記事で気づかされた。まだ時期尚早か。別に何も悪いことは、ねぇ。