と、いうよりこのタコ部屋が進化した

12月17日、末井昭『自殺』(朝日出版社)を読む。2011年5月から「朝日出版社第二編集部ブログ」にて“面白く読める自殺の本を”との呼びかけに応じて著者が月一回連載してきたもの。著者、末井昭は『写真時代』、『パチンコ必勝ガイド』などを創刊した名物編集者。82年に自身の母親が不倫相手とダイナマイト心中した過去を主題に綴った自叙伝『素敵なダイナマイトスキャンダル』(北栄社)を発表して話題になった。当時三十代半ばだった末井昭は現在六十代半ば。借金地獄、恋人の自殺未遂、うつなどの深みにはまりかけるも本書の連載をきっかけに社会復帰を果たしたところ。両親が心中したSMモデルにインタビューする回や青木ヶ原樹海に潜入ルポする回なども充分面白く読めたがダントツに笑えたのが自身の不倫体験をバカ正直に告白する“眠れない夜”の回。27歳で『写真時代』の前身、『ウィークエンドスーパー』を創刊した頃に女性編集者と恋仲になる著者。「Fと最初にセックスしたのは新宿の同伴喫茶でした」に始まる独特の語り口による濡れ場が秀逸。喫茶店というよりベニヤで仕切っただけのタコ部屋でコタツに入ると隣の客がベニヤを蹴る音がする。「怒って蹴ったわけじゃなくて、部屋が狭いから、セックス中に足でベニヤを蹴飛ばしてしまったんだと思います」つまり70年代半ばには今のカプセルホテル同様の営業がまかりとおっていたのか。と、いうよりこのタコ部屋が進化したものが現在のカプセルホテルなのだろう。ならば現在残業明けにカプセルを利用する三十代男子にとってそこは両親の愛の現場であったかもしれないわけだ。「そこで僕らもセックスしたのですが、入れたと思ったらすぐ出てしまい、つまり早漏ということですが、ますます気まずい思いになって、自分のチンコとその部屋を呪いました」このサイテーぶりと自由さには圧倒される。スエーがまたヤクザに軟禁されてるそうといった修羅は『写真時代』の荒木経惟の連載に何度も出てくる。もう何でもしますから許してくださいなどと平身低頭してようやく解放してもらった実体験が各方面にある謝罪中毒の著者。その著者と惚れて惚れぬく恋仲になるような女性は大概狂死寸前までいくという因果な告白には本物だそりゃとついほっこりしてしまうのは何故か。末井昭はいったい何の本物なのか。何でもするなら許してやるつもりでいた側の人間より本物なのだ。本物化する以外にすべがなかったというか。いわばエロ業界版の中田カフスのような著者に只、脱帽。