堂々としたタイトルだが67年といえば

6月9日、『日本一の男の中の男』(67年東宝)をDVDで観る。監督、古澤憲吾。堂々としたタイトルだが67年といえば人気シリーズもそろそろ中弛みか。全盛期を過ぎたバンドがアルバムタイトルにバンド名を冠するようなものか。クレージーキャッツからも谷啓しかゲスト出演していない。主演の植木等は例のごとく造船会社の営業から婦人靴下の販売、広報また営業とここまで50分に3回も転属されて行くが。無責任シリーズには馴染まない人事部長役の牟田悌三という俳優は市民運動の人だし劇中繰り返される「実力者はつらいね」という台詞にもどこか無理がある。67年には古澤憲吾がシリーズに託した「義の心」も屈折した笑いとしても成立しにくくなっていたのではないか。青島幸男作詞の主題歌、「なせばなる」がいきなり「金をまかなきゃ芽が出ない」で始まる通り本作の植木等は痛快というより世慣れ過ぎて魅力に欠ける。快男児役には年を食い過ぎて止むなく開き直った感が。ツタヤの新入荷コーナーの棚の中で本作だけ旧作価格で借りられた理由がわかるような。『日本一の男の中の男』なんて知らなかったはずでやはりシリーズ中中弛み期の不発弾だったよう。それでも日活から招いた浅丘ルリ子はチャーミングだし植木等が社内からスカウトしたイメージガール役の三人娘、木の実ナナ奥村チヨ、伊東きよ子の初々しい姿が観られるのは貴重。浅丘ルリ子は本作の数年後に寅さんシリーズのリリー役を演じる。本作で演じる会長の孫娘役の浅丘ルリ子とは別人のように印象が違う。お嬢様役とキャバレー歌手役とでは印象が違うのは当たり前かもしれないが役作り以前にすっかり人間が変わってしまったような。リリー役のけだるさは時代の気分で木の実ナナ奥村チヨが新人の頃から放っていた濃厚な色香同様言ってしまえば流行色みたいなものと思うこともできる。が、最近出版された本人の自伝にはその辺りどのくらい書かれているんだろか。激白したい祈りが聞きたい祈りでもないんが一寸後ろめたいが。そんなこと言ったら本作で「まぁ皆さん、一所懸命おやんなさい」とクリーン主義の上層部に見切りをつけて会社を飛び出す植木等にも聞いてあげなきゃいけないことはあるのでは。クレーマーに化けてつかまえた取引先を赤坂の料亭で芸者をあげてえっさっさと接待漬けにする無責任男には「ゴジラの息子」同様もはやついて行けない。が、「実力者」たるものが何がどうつらいのかは無責任シリーズをもう一度頭から観直してみようか。そんな祈りがまだあるんだろか。