徹底した少数党派で好き者同士

7月30日、『盲獣』(69年大映)をDVDで観る。監督、増村保造江戸川乱歩の原作小説をたったひとつのセットとたった3人のキャストで大胆に脚色した意欲作。公開当時はその意欲への反響は乏しかったようだが現在は増村作品のなかでも特にカルト的人気が高い珍品。緑魔子演じる売出し中のヌードモデルに恋い焦がれる盲目の変態芸術家を演じるのは船越英二。盲人はヌードモデルにマッサージ師に扮装して近づき誘拐。人里離れた山荘のアトリエに監禁する。犯行を手助けするのは盲人を女手ひとつで育て上げた母親で演じるのは千石規子緑魔子船越英二千石規子、キャストは以上3名。舞台となるのは山荘のアトリエ1件。これで全編84分もつのかどうかと思われるが不思議とダレ場がなくテンポよくストーリーは展開する。展開するといっても無理やりさらった女が変態芸術家である盲人に体をあずけてモデルになり母親以外の唯一の女になりやがて情死に至るまでを描いただけではあるが。物語の大半は盲人の求愛を拒むヌードモデルのイヤヨイヤヨモを硬派な会話劇として大真面目に描ききるところに増村作品ならではのわけのわからない感動がある。船越英二市川崑の『野火』に出演した際に行軍シーンのリアリティを出そうと絶食して本当に行き倒れたほど大真面目な俳優である。増村作品にもたびたび登場してその異常な演出に大真面目に応える。増村の演出に正しく応えられるのは船越英二のような大真面目な俳優でなければだめで感覚的にひねた俳優、やる気のなさが売りの俳優では使いものにならない。そうした俳優が主流になってくる80年代以降になると『スチュワーデス物語』など自嘲気味な堅物コントを手がける以外なかったのは仕方ないことか。パロディの時代ではある。が、今ある権威に噛みつく意義など感じない。ならば自身をパロディ化するという姿勢へのお茶の間からの大反響は晩年の増村を本当に勇気づけたのかどうか。徹底した少数党派で好き者同士好き勝手に作った映画をまがいなりにも商業ベースに無理やり押し込んでいた60年代の増村以上にドジでのろまな亀が流行語になった80年代の増村がより痛快だったと認められる時代もやがて来るのだろうか。「たぶんものすごく痛いけどとても楽しいと思うの」と本作で緑魔子が息もたえだえに語る名台詞は増村作品に共通するテーマのよう。真面目な変態にしかたどりつけない性と愛の極点を全速力でめざした『盲獣』は常に時代の一歩先を行く意欲作。