映画の方はよくてもB級扱いの

10月11日、あがた森魚大瀧詠一『僕は天使ぢゃないよ』(KING RECORDS)を聴く。本作は75年に“あのデニス・ホッパーイージー・ライダー』に触発されてあがたが制作、監督、主演した同名映画のサントラ”なのだが映画をDVDで観たかぎりそれが発端ということ自体が衝撃的。あがた映画には他にも『オートバイ少女』という衝撃作があるそうで機会があればトライしたい。映画『僕は天使ぢゃないよ』は私には言わばあがた森魚大瀧詠一とティンパン・アレーの面々による宴会映画にしか見えなかったのだ。ぴあフィルムフェスティバルの初期に登場した8ミリ青年たちの無邪気な狂宴をそのままフィルムに収めたような。本作がDVD化された頃にはもちろんそんな自主映画ブームもとうに過ぎ去っていた。が、あがた森魚大瀧詠一もかつてはこんな無邪気な遊びにふけっていた事実がうれしかった。映画の方はよくてもB級扱いの本作だがこのサントラは素晴らしい。編曲に矢野誠が参加して学生ノリの宴会映画に本職の絵師が目立たぬよう骨書きしたような感が。タイトル曲がオープニングとエンディングに収録されているのにつられて何度も繰り返し聴きながら映画の世界に棲みついていたくなる。それでも映画本編はよくても凡作、言ってしまえば失敗作なのだが。試しに原作の林静一の劇画『赤色エレジー』を読みつつ本作を聴いてみるとピタリとはまった。あがた森魚が一番最初に何をやりたかったか手に取るようでデニス・ホッパーに余計な影響を受けなければもっとあがた森魚らしい作品になったのではないか。タイトル曲の中の「信じたわけじゃないけど/待っていたんだ/知らなかったわけじゃないが」というくだりにはこの時代の若者の現実からの後ずさりが無防備に歌われている。当時の大部分の若者という意味でもひとにぎりの若者という意味でもなく。若者とは常に臆病であきらめが悪いのだ。そのことだけが次の世代につなぐメッセージとも言える『僕は天使ぢゃないよ』はその無防備さゆえに普遍性を保つ。ただ今の私が本作を繰り返し愛聴してしまう理由は大瀧詠一の人懐こい美声がもう体温をもっていない事実がなおさらビビッドな郷愁を運んでくるからかもしれないのだが。あがた森魚大瀧詠一コンビのかつての無邪気な狂宴の断片がいずれまたどこからか発掘されることを私は願う。それだけを楽しみに待ってみるだけでも充分年は越せそうである。年の暮れには懐かしい人をたずねてみたくなるものでもあるし。