安藤サクラならもらえるものは

11月29日、有楽町スバル座にて『0.5ミリ』(13年 ZERO PICTURES/REALPRODUCTS)を観る。監督、脚本 安藤桃子。本作の主人公山岸サワを演じるのは監督の実妹でもある安藤サクラ。エグゼクティブ・プロデューサーに奥田瑛二、劇中登場する手料理を監修するフードスタイリストに安藤和津と一家総出で作り上げた本作の圧倒的な面白さに予告編では私は気づかなかった。観てよかった。派遣先で色事がらみのトラブルを起こし無一文になったヘルパーのサワが通りすがりの老人の弱味を握っては強引に在宅介護させる善意の悪行を繰り返す展開は抜群のテンポ。三時間超の長尺もまったく感じさせない。まず手始めにカラオケボックスをホテルと思い込み受付でもめている井上竜夫演じる家出老人を見つけた瞬間まったくもうなどとお付のヘルパーになりすまして個室に引きずり込む早業に思わず吹いてしまう。その時から本作における観客と主人公との共犯関係が成立してしまう。やってることは言ってしまえば犯罪でも押しかけヘルパーの世話になり胸の内をすべて吐き出した老人たちは心底感謝する。感謝のしるしである捧げ物も愛用のコート、昭和のヴィンテージカ―、金百万円とわらしべ長者並に肥えてゆくも主人公の暮らしぶりは着のみ着のままの渡り鳥である。女優、安藤サクラの目指すところは今日的な任侠スターではないか。言ってしまえば犯罪者であり平和な街のパラサイトとも呼べる存在でも確かに土地の人々から愛され頼りにされている類まれなキャラクター。既製のVシネマ俳優では今時成立しないポップなアウトローぶり。この路線で突き進めば藤純子の『緋牡丹博徒』シリーズに近いポピュラリティーを獲得してしまうかもしれない。安藤サクラならもらえるものはもらっていく筈だろうし。一家総出の制作ということもあってか本作の安藤サクラは過去の出演作で演じたどの役柄よりも魅力である。今風の軽さと茶目っ気だけの魅力でなくドブ板踏んで汚れにまみれた悪の華。その悪の華が罪もない老人たちを次々食い物にしてもなお魅力を残しているタフネスはお竜さん以上かもしれない。「もう女じゃないんです、私」とゆきずりの家族にさらりと告げる我が身の不幸も孤独な老人たちの自転車泥棒が制服フェチ同様のちっぽけな弱味と変わりはしないと強がる姿は胸締めつける。言わば惚れる。このただひたむきに生きる「もう女じゃない」女を最後の最後まで見守りたいような衝動にかられたその時から私もまた共犯関係にあるよう。観るんじゃなかった。