いじられキャラのまま30年もいじられ

2月11日、蛭子能収 著『ひとりぼっちを笑うな』(角川ONEテーマ21)を読む。本書は漫画家で俳優業、タレント業もこなす蛭子さんによる人生指南書である。あの蛭子さんに人生指南書を授かりたい人間なんて世の中にいるのかと思う。が、普通の人間が超一流企業の創始者や世界記録を持つアスリートに人生指南を授かって果たしてそれほど参考になるのだろうか。所詮は人間の器が違うのではとも思う。そうかと言って蛭子さんが並以下の器量で他方面に渡り成功してしまったまぐれ当たりの果報者だとも思えない。だが蛭子さん自身はあくまでも己を並以下の「いつもおかしなオヤジ」に設定している受け身型人間なのだと本書では主張している。前書きにある「これだけはやってはいけないルールやちょっとしたポリシーみたいなもの」が蛭子さんの中には子供時代からあってそこをブレずに生きてきたからこそ今があるのだと。そのこれだけはやってはいけないルールとは何か。それは「自分がされてイヤなことは、他の人にも絶対しない。それが蛭子の基本ルールです」だそうで非常にわかりやすいというか大人が胸を張って言うことでもないような。けれど蛭子さんに言われると妙に納得してしまう節がある。「僕、蛭子能収もテレビに出るようになって30年以上が経ちました」気づけばもうそんな長い年月世間は蛭子さんのパーソナリティに触れてきたのであってハッキリ大御所なのだ。いじられキャラのまま30年もいじられ面白がられてきた蛭子さんが並以下のいつもおかしなオヤジであるわけがない。完全に猛者である。だがそうは感じさせない自然体こそが蛭子さんの武器であり一朝一夕に培われたものではないのは確か。「とにかく、人が聞いてイヤだと思うようなことは言わない、イヤだと思うようなことはしない。常にそのことを心がけて生活してきました」とのくだりには自分もそうだとうなづける人も多いのではないか。しかし蛭子さんはさらにこう語る。「つまり、もっと極論を言えば、“自ら積極的にはなにもしない”ということです」普通の人間がそんな真似をすればたちまち実社会からはみだしてしまうだろう。しかし蛭子さんはそのルールに乗っとって自分からは何もせず頼まれた仕事を「お金のためなら、なんでもしますよ!」というくらいの気持ちで引き受け続けて成功してしまったのだ。普通の人間はその手があったかなどと膝を叩くべきではない。絶対に真似をしてはいけない蛭子流人生指南が綴られた本書は案外バカ売れしてしまう気もするが。