グランドホテル形式と呼ばれる作劇を

2月3日、テアトル新宿にて『さよなら歌舞伎町』(14年 映画「さよなら歌舞伎町」制作委員会)を観る。監督、廣木隆一、脚本、荒井晴彦。新宿歌舞伎町のとあるラブホテルを舞台にそこで働く人々、訪れる客、性風俗関係の仕事を持ち込む常連客らのそれぞれ複雑な事情がからみあう群像劇。グランドホテル形式と呼ばれる作劇を新宿のラブホで展開させるというロマンポルノ流の着想が私なぞには楽しい。が、前田敦子はメジャー系アイドルながらこうしたひねた小品ばかり好んで主演するのはいい加減マイナスなのではとファンでもないのに心配になる。本作に登場する男女は皆個人個人に心配ごとを抱えている。過去に起こした犯罪の時効を待っている中年夫婦、恋人に内緒でデリヘルに勤める韓国人女性、家出娘を風俗に売るつもりが同情から愛し始めてしまった極道者、それらの人間模様の中心に居るラブホの店長自身さえ実の妹や同棲中の彼女が客として店を訪れるハプニングに見舞われる。ラブホの店長役は染谷将太で彼女役は前田敦子。以前に映画化されかけて没になった脚本を旬のアイドル俳優を起用して再び練り直したそう。染谷将太がラブホの店長でも不思議と違和感はない地霊が歌舞伎町にはまだ眠っているよう。末代までも家族で安心して歩ける街にはならないしお洒落さや高級感をアピールしようともどこか嘘寒くなるばかりのこの街を人はなぜ愛してしまうのか。群像劇にかならず登場するそれぞれの人間関係が一瞬で交錯する結末もロマンポルノ流にあえてしょぼくやるせない。SMプレイ中に興に乗った客が廊下でじゃれ合う姿に切れた染谷が暴れた際に非常ベルを鳴らす。そのどさくさに刑事に確保されていた南果歩演じる掃除のおばちゃんが逃走。松重豊演じる手配中の夫と時効成立の深夜12時まで新宿界隈を自転車で駆け抜ける。染谷店長は歌手志望の彼女の枕営業を目撃するも影ながら応援するような捨て台詞しか言えずにふらりと郷里に帰って行く。この群像劇に登場する人々は皆致し方なく現実に引きずられて生きていくばかりの悲痛な人々である。私なぞはそこに惹かれる。ストリップ劇場でお父ちゃんそこ寒いから暖房のそばへなどと老人客に踊り子も周囲の客も自然と敬愛の手を差しのべる場面に居るときのような。とはいえそんな場所に真昼間から集う無職者はそもそも最低なのかもしれない。かもしれないが不思議と心は温まっている。このほっこり感はやはりロマンポルノならではのものではないかと思う。前田敦子さんをこれからも応援します。