その割に表立った交流があまりないのは

5月9日、谷川俊太郎 対話『やさしさを教えてほしい』(朝日出版社)を読む。本書は81年に奥川幸子、中島みゆき、永瀬清子、ぱくきょんみ他6名の女性と谷川俊太郎との対話をまとめたもの。それぞれソーシャルワーカー、シンガーソングライター、詩人と立場は異なるものの「老人問題と一夫一婦制」を扱った今の時代の人生論を語るというテーマは同じ。私は中島みゆきが人選されているのを意外なチョイスと初め感じた。が、中島みゆきは大学の卒論に谷川俊太郎を選ぶほどの谷川ファンだそう。その割に表立った交流があまりないのは逆にあやしいとも感ず。本書に収録された中島みゆき谷川俊太郎の対談がおこなわれたのは80年。当時中島みゆきは28歳、谷川は49歳、写真で見ると中島みゆきにはまだ少女の面影があり谷川俊太郎にはまだ充分な男の色気がある。対談の中味もどこか艶っぽい。前半は谷川が中島の暮らしぶりや男性の好みを聞き出す形だが中島は妙にフレンドリーで堂々としている。「それじゃ、私小説的にあなたの歌を聴いていいわけだ」「私小説って何だっけ。あ、そうか。そういうことになるのかな」などと学生時代からファンだったこの道三十年の職業詩人にインタビューされてもたじろがない。後半になると話題が結婚観、老後観などにおよび少しほぐれた感じに。「理想の男性像は何ですかと訊かれたら、どう答える?」「うーん、答えるのがむずかしい質問ね。男の中の男って何か…と、あたしのなかの男に訊こうかしら」そう答える中島みゆきの語り口は男性的である。オールナイトニッポンでこの男性的語り口が世間に認知されてなければ中島みゆきはもっと暗黒舞踏寄りのおどろおどろしい女性と誤解されていたのでは。『うらみます』のレコーディングで実際に泣いたのかどうか谷川がつめ寄ると「おしえてあげないの」と中島は軽くつっぱる。本気で泣いてた訳じゃないということかと再度たずねると「おしえてあげないの」と尚もつっぱる。じゃ本気なんだな、泣かずにいられなかった訳だなと谷川が念を押すと「おしえてあげない」と中島は最後までつっぱる。「ありがとう。おしえてくれなくて。あなたの歌みたいにすてきな答え方だね」などとATG映画の恋人たちのような語らいはやはりあやしい。あやしいが無理もないと納得してしまうほど当時の中島みゆきは富裕層から愛でられそうな愛人顔なのだ。その頃中学男子だった私にはまだ中島みゆきをそのように余裕たっぷりに愛でる男の甲斐性などある訳がない。今もないのだが。