70年組の青春はいま少しそっとして

7月15日、クリス松村 著『「誰にも書けない」アイドル論』(小学館新書)を読む。本書はアイドル歌謡の解説者としても知られるタレントのクリス松村が70年代末から80年代末を中心に展開するアイドル論。著者がアイドル歌謡に異常に詳しいことは以前から知っていた。が、そもそもおねエキャラとしてテレビに登場した著者が新宿二丁目出身ではなく上原謙のマネージャーも務めた芸能事務所出身だと本書で初めて知る。父親は外交官で少年期を海外で過ごしたというのも意外だったがいじめをバネに猛勉強し飛び級を果たした秀才の著者がアイドル歌謡に夢中になるくだりはなるほどと感ず。外交官の息子と机を並べる環境には程遠い私と著者はほぼ同世代。同級生のトップグループの秀才たちは皆なぜかアイドル歌謡好きで歌番組の週間チャートを記録したり照合したり予想したりするのに夢中だった。今思えば学業の世界こそがチャートの世界なのだった。そんな秀才の一人だったはずの著者が現在提唱しているのが過去の年間チャートの見直しである。例えば78年発の郁恵ちゃんの『夏のお嬢さん』は80年代になると20万枚はソロ歌手のアイドルにはまず届かない数字になる。そこで選挙戦での一票の重さを是正するように時代に応じて計算方法を変えてはどうかというもの。アメリカのビルボードはもうそれを始めていますよというのが著者の主張。郁恵ちゃんの『夏のお嬢さん』の歴史的価値を後世に正確に伝え残したいと万人が願うときがもう来ているのだろうか。「世界遺産」なんて自分たちの土地に迎え入れたくないと願う人も少なからずいるはずなのだがそうした反対意見には昨今スポットは当たらない。『夏のお嬢さん』が稀代の名曲にまつりあげられるのはいたたまれない人というのもいなくもないだろう。70年組の青春はいま少しそっとしておいてあげたい気もするがいじるなら80年代という探究心は著者にもあるようで。「なお、文中、アイドルの名前を列挙しているだけのように見える箇所もあるかもしれませんが、資料としては大事な部分ですので、どうかご了承ください」という前書きは後半の「高田馬場にあった通称『ポルノ噴水』のところに、なぜか看板をずっと掲げていた北泉舞子さん」という一行のためだけにある振りに違いないと感ず。「ポルノ噴水」で吹けるかどうかが本書を楽しめるかどうかの試験紙でもあるが。今回のところはこの程度の暴投ですんで一安心かと。